投稿日:2026.06.04
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棚卸資産とは?評価方法の種類や選び方を分かりやすく解説

棚卸資産とは、企業が通常の営業活動において販売を目的として保有する資産のことで、商品・製品・原材料などのいわゆる「在庫」を指します。期末の棚卸資産をどの価格で評価するかは、貸借対照表(B/S)の資産額や損益計算書の売上原価に直結するため、財務数値の正確な把握において欠かせない会計処理です。

本記事では、棚卸資産の定義や主な勘定科目、評価方法の種類と選び方、評価手順、税務上の留意点を解説します。

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棚卸資産とは、販売を目的として保有する資産のこと

棚卸資産とは、通常の営業過程において販売を目的として保有する資産のことで、商品や製品、原材料などの在庫がこれに当たります。
棚卸資産は、貸借対照表の「資産の部」に記載され、1年以内に現金化できると見込まれる「流動資産」に分類されます。流動資産の中でも棚卸資産は、現預金や売掛金と並んで残高規模が大きくなりやすく、企業の財務状況を把握する上で重要な科目の一つです。

また、棚卸資産は売上原価の計算とも深く結び付いています。期首在庫に当期仕入れを加え、期末在庫を差し引いた金額が売上原価となるため、期末の棚卸資産の評価額が適正でなければ、利益も正確に把握できません。評価方法の選択が財務諸表の信頼性に直接影響する点は、押さえておきたいポイントといえるでしょう。

さらに、棚卸資産の過剰保有は資金繰りの悪化や不良在庫の増加につながります。棚卸資産回転日数(在庫が売上に転換されるまでの日数)は経営効率を測る指標としても広く活用されており、在庫水準の適正管理は経営管理上の課題の一つです。

※財務諸表については下記をご参照ください。
財務諸表とは?作成する目的や財務三表、分析視点について解説

棚卸資産の主な勘定科目

棚卸資産の会計処理では、「棚卸資産」という一つの科目をそのまま使うよりも、棚卸資産の性質や製造・販売の段階に応じて細分化した勘定科目を使い分けるのが一般的です。
適切な科目の使い分けが、在庫の実態把握と管理精度の向上につながります。

■ 棚卸資産の主な勘定科目

勘定科目 概要
商品 仕入れてそのまま販売する目的で保有する物品
製品 自社で製造し、販売する目的で保有する完成品
半製品 製造が完了していないが、外部販売が可能な段階にある中間製品
仕掛品 製造途中であり、まだ外部に販売できない状態にある加工中の物品
原材料 製品の製造に使用するために保有する素材や部品
貯蔵品 切手や印紙、事務用品など、業務に使用するために保有する物品

これらの勘定科目を正確に使い分けることで、在庫資金の可視化と管理の精緻化が可能です。特に製造業では、製品・半製品・仕掛品・原材料を明確に区分することが、原価管理の基盤となります。

※原価管理については下記をご参照ください。
原価管理とは?目的や具体的な進め方、企業が抱える課題を解説

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棚卸資産の評価方法

棚卸資産の評価方法とは、期末時点の在庫数量に対して、ルールに沿って算定した単価(評価額)を掛け合わせ、貸借対照表に計上する金額を決定することです。
評価方法は大きく「原価法」と「低価法」に分けられます。どちらを採用するかは企業が任意で選択できます。

原価法:棚卸資産を仕入れたときの取得原価で評価する方法

原価法とは、棚卸資産を仕入れたときの取得原価で評価する方法です。低価法とは異なり、時価の下落を考慮せずに原価で固定評価するため、計算方法がシンプルで実務的な運用がしやすいという特徴があります。

原価法の下では、期末在庫の単価の評価方法として主に以下の6つがあります。業種や品揃えの特性、価格変動の大小、管理体制に応じて使い分けることが重要です。

■ 原価法の評価方法

評価方法 概要 適した業界
個別法 個々の商品ごとに取得原価で評価する方法 宝石・貴金属業、不動産
先入先出法 先に仕入れた商品を先に払出と仮定して原価で評価する方法 食品製造業、消費財製造業
移動平均法 仕入の都度平均原価を再計算して評価する方法 小売業、製造業
総平均法 期首在庫と期中仕入れの総平均原価で評価する方法 小売業、卸売業
売価還元法 期末売価に原価率を乗じて原価を逆算する方法 小売業、量販店
最終仕入原価法 期末直前の仕入原価で全在庫を評価する方法 小売業、卸売業

低価法:原価と期末時価を比較し低い方で評価する方法

低価法とは、原価法で計算した評価額と期末時点の時価を比較し、いずれか低い方の金額で棚卸資産を評価する方法です。時価が原価を下回った場合に差額を評価損として計上するため、財務諸表により実態に即した数値を反映できます。

流行商品や市場価格の変動が大きい業種、または陳腐化リスクの高い在庫を抱える企業において特に有効な評価方法といえます。一方で、時価の把握や評価損の算定に一定の工数がかかるため、管理体制の整備が必要です。

棚卸資産の評価方法の選び方

評価方法の選択は、一度届け出ると継続が原則となります。そのため、自社の業種・商品特性・管理体制を踏まえた慎重な判断が求められます。
棚卸資産の評価方法は、「商品特性」「管理工数」「業種慣行」の3つの観点から検討するとよいでしょう。

<棚卸資産の評価方法の選び方>

商品特性で選ぶ

商品の価格変動の大小や個別管理の可否に基づいて評価方法を選ぶことが、実務上の第一歩となります。
高額品や個別管理が可能な商品には個別法が、価格変動の大きい商品には原価法に低価法を組み合わせた対応が有効です。

■ 商品特性に応じた評価方法の選択

商品特性 推奨評価方法 理由
価格安定 原価法(移動平均法など) 時価変動が少なく、原価で固定評価が可能
価格変動大 原価法+低価法 時価下落時に評価損を反映し、利益の実態把握が可能
高額・個別管理可 個別法 ロットごとの正確な原価把握が可能
大量管理 売価還元法・最終仕入原価法 管理工数が少なく、実務運用に適する

管理工数で選ぶ

経理部門の人員や在庫管理システムの整備状況に応じて、実務的に運用できる評価方法を選ぶことも重要な観点です。
管理工数が低い環境では最終仕入原価法や売価還元法が向いており、高精度な管理が可能な環境では先入先出法や個別法の採用も検討できます。

■ 管理工数別の評価方法

管理工数 評価方法
最終仕入原価法・売価還元法
移動平均法・総平均法
先入先出法・個別法

業種に合わせて選ぶ

同業他社の慣行を参考にすることも、評価方法を選ぶ上で有効なアプローチです。
業種ごとに定番とされる評価方法が存在するため、業界標準を把握した上で自社の状況に合わせた選択を行いましょう。

■ 業種別・定番の評価方法

業種 定番の評価方法
小売・量販店 売価還元法+低価法
食品製造 先入先出法
製造業 移動平均法
宝石・貴金属 個別法

棚卸資産がキャッシュコンバージョンサイクルに与える影響

キャッシュコンバージョンサイクル(CCC)とは、仕入れに使った資金が売上・回収を経て手元に戻るまでの日数を示す経営指標です。
計算式は「棚卸資産回転日数+売上債権回転日数-仕入債務回転日数」となり、数値が小さいほど資金効率が高い状態を示します。棚卸資産回転日数の計算式は「棚卸資産÷売上原価×365」です。
在庫を過剰に抱えると棚卸資産回転日数が長くなり、CCCの悪化につながります。また、評価方法の選択によっても期末の棚卸資産残高が変わるため、間接的にCCCへ影響を与える点も考慮が必要です。

経営管理の観点では、評価方法の選定と在庫水準の管理を一体として捉えることが重要です。適切な評価方法の下で正確な棚卸資産残高を把握し、在庫の適正水準を維持することが、資金効率の改善と経営の安定化に直結します。

棚卸資産の評価手順

棚卸資産の評価は、期末決算において正確な財務数値を確定させるための重要な実務プロセスです。
棚卸資産を評価する際は、大きく3つのステップで進めていきます。

<棚卸資産の評価手順>

1. 実地棚卸の実施

実地棚卸とは、期末に実際の在庫を確認し、保有している全ての商品・製品・原材料などを棚卸表に記載する作業です。帳簿上の在庫数量と実際の在庫数量を照合し、不一致がある場合は棚卸差異として調査・処理が必要となります。

実地棚卸を正確に行うためには、数量を確認する担当者と記録する担当者を分けるなど、内部統制上の管理手続きを整備することが求められます。
また、税務調査に備え、棚卸表や立会記録など実施した証拠書類を適切に保管しておくことも重要です。

2. 棚卸資産の評価

実地棚卸で確認した在庫数量に対して、税務署に届け出た評価方法を適用し、各棚卸資産の評価額を算定します。評価方法ごとに評価額の計算ロジックが異なるため、選択した方法に基づいて正確に算出することが重要です。

低価法を採用している場合は、原価法で算定した評価額と時価を比較し、低い方の金額を採用します。時価の把握には、仕入れ先の価格表や市場相場などの客観的な資料を用意しておきましょう。

3. 棚卸資産額の計算

評価額が確定したら、全商品の評価額を合計して期末棚卸資産額を確定させます。棚卸資産額の計算式は「各商品の在庫数×評価額の合計」です。この金額が貸借対照表に計上されるとともに、売上原価の算定にも使用されます。

最終的な棚卸資産額が確定したら、仕訳処理を行います。期末棚卸高は「繰越商品」や「製品」などの勘定科目で資産計上し、売上原価へ振り替える処理を行うことで、損益計算書上の利益が確定します。

棚卸資産の税務上の留意点

棚卸資産の税務処理では、評価方法の届出や取得価額の算定など、見落としやすいルールが複数あります。
期末決算や税務調査に向けて、以下の5点を事前に確認しておくことが重要です。

<棚卸資産の税務上の留意点>

評価方法を事前に届け出る

最終仕入原価法以外の評価方法を使用する場合は、確定申告期限までに「棚卸資産の評価方法の届出書」を税務署に提出する必要があります。新規設立の場合は第1期確定申告期限まで、変更時は適用年度の確定申告期限までです。届出がない場合は最終仕入原価法が自動適用されます。

一度届け出た評価方法は継続することが原則です。変更する場合は、税務署長への事前承認申請が必要となります。評価方法の変更は利益操作につながる可能性があるとみなされるため、正当な理由がない限り承認されないケースもある点に注意しましょう。

勘定科目を正しく使い分ける

商品・製品・半製品・仕掛品・原材料など、資産の状態や製造段階に応じて適切な勘定科目を選択することが求められます。科目を正確に使い分けることが、在庫資金の可視化と資金繰り管理の精緻化につながります。

税務調査の際には、各勘定科目の内訳を明確に説明できる状態を維持しておくことが重要です。科目の選択を誤ると財務諸表の信頼性に影響するため、会計処理の基準に沿った適切な運用を心掛けましょう。

取得価額に仕入諸掛を含める

棚卸資産の取得価額は購入代価のみでなく、運送費・関税・保険料・検査費用などの仕入諸掛(付随費用)も含めて計上することが原則です。ただし、購入代価の3%以内の少額の付随費用は、費用処理として除外することが認められています。

一方、不動産取得税や借入金の利子は取得価額には算入せず、費用として処理します。取得価額の範囲を誤ると棚卸資産の評価額が正確でなくなるため、付随費用の取り扱いについて事前に整理しておくことが大切です。

評価損を特別事情がある場合に計上する

低価法を採用している場合でも、評価損が税務上の損金として認められるのは、陳腐化・過剰在庫・災害損害など特別な事情がある場合に限られます。通常の時価下落のみでは損金算入が認められないケースがあるため、注意が必要です。

評価損を損金算入するためには、時価を証明する客観的な資料の準備が不可欠です。税務調査時に提示できるよう、仕入れ先の価格表や市場相場に関する記録を整備・保管しておきましょう。

税務調査に備える

税務調査では、棚卸資産に関する証拠書類の提示が求められます。具体的には、棚卸表・立会記録などの実地棚卸の証拠書類、評価方法の計算根拠、付随費用の領収書などが対象です。これらの書類は、法人税法上7年間の保管が義務付けられています。

書類の整備が不十分な場合、税務調査で指摘を受けるリスクが高まります。日頃から証拠書類を適切に保管・管理する体制を整えることで、税務リスクの低減につながるでしょう。

棚卸資産を正しく理解し、経営管理の高度化につなげよう

棚卸資産は、貸借対照表上の流動資産として企業の財務状況を左右するとともに、売上原価や利益の算定にも直結する重要な勘定科目です。評価方法の選定・評価手順の整備・税務対応の適切な運用が、期末決算の信頼性向上と経営管理の高度化につながります。
在庫管理の見直しや評価方法の選定を機に、経営管理全体の精度向上を検討してみましょう。

株式会社アバントでは、財務・非財務情報の収集・統合から多軸分析まで対応する経営管理システム「AVANT Cruise」をはじめ、日本を代表する数々の企業への導入・コンサルティング支援実績があります。
棚卸資産管理を含む経営管理の高度化や業務効率化についてお困りのことがあれば、お気軽にご相談ください。

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【本記事の監修者】

管理会計ラボ 福原 俊氏
公認会計士


2002年会計士試験合格後、監査法人トーマツにて監査業務に従事。
以降、大正製薬など上場企業3社にて実務経験を積む。経理部長や経営管理室長として組織を率いた経験を活かし、監査の「外部視点」と事業会社の「内部実務」を融合させた現場主導のガバナンス構築を得意とする。
現在は管理会計ラボ(株)講師、SOELU(株)社外監査役として、企業の意思決定と持続的成長を支援している。

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