投稿日:2026.05.20
投稿日:2026.05.20

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企業価値向上

連載「資本コスト経営と向き合う」

CFOとして求められる役割(3) 不確実性の時代におけるCFO―モニタリングとバランス感覚

本シリーズ「CFOとして求められる役割」では、企業価値向上を担う中核として、これからのCFOに求められる役割や思考法について紐解いていきます。

年度初に策定した計画が、数ヶ月で前提から揺らぐ――。生成AIの台頭、地政学リスク、インフレと金利環境の変化、そして資本市場から高まる資本効率改善への圧力。企業を取り巻く環境は、かつての「比較的安定した時代」とは大きく様相を異にしています。この状況の中でCFOに求められているのは、「計画を当てること」ではありません。変化する前提のもとで、意思決定を更新し続けることです。

第1回ではCFOの役割が「守り」から「価値創造の司令塔」へと変化していること、第2回では抽象的な戦略をKPI構造へと翻訳し、現場との対話を深める力について解説しました。
今回は前回の予告通り、実行に移された戦略に対し、不確実性の高い事業環境の中でどのように「軌道修正(モニタリング)」を図り、成長のための「資本配分(キャピタルアロケーション)」を行っていくべきか、「攻め」と「守り」のバランス感覚について整理します。

■ シリーズ「CFOとして求められる役割」の第2回については下記をご参照ください。
CFOとして求められる役割(2) 戦略を「数値と現場のアクション」に落とし切る力―指標構造の設計と対話

キャピタルアロケーションにおける「攻め」と「守り」

PwCが実施した「CFO意識調査」でも示されている通り、現在のCFOにとって重要なテーマの一つが、「大胆な変革とコア事業のバランス」です。

不確実性の高い環境において企業は、
・既存事業の収益力を維持・向上させる「守り」
・新たな成長に向けた投資を行う「攻め」
を同時に成立させなければなりません。

この相反する要求を統合するのが、キャピタルアロケーションです。
企業が創出したキャッシュを、
・財務健全性の確保
・成長投資
・株主還元
のどこに、どの順序で、どの程度配分するのか。これは単なる配分の問題ではありません。どこに資源を集中させ、どこを抑制するかという、経営そのものの意思決定です。

戦略実行後に求められる「統制(コントロール)」―意思決定を更新する仕組み

しかし、どれほど精緻な資本配分方針やKPI構造を設計しても、それだけでは企業価値は向上しません。戦略は実行され、その結果として現実が明らかになります。そしてその現実は、常に当初の前提と完全には一致しません。ここで重要になるのが「統制(コントロール)」です。統制とは、計画と実績の差異を起点に、意思決定を更新するプロセスを指します。

具体的には、
・予算差異の分析
・月次・四半期でのレビュー
・着地見通しの更新
・投資判断の見直し
といった活動を通じて、戦略と実行をつなぎ直していきます。計画を立てること自体ではなく、計画を前提に意思決定を更新し続けることこそが、経営管理の本質です。

モニタリングが意思決定の質を決める

モニタリングが機能していない組織では、経営会議は「過去の反省会」に陥ります。実績と予算との差異を確認し、その理由を説明する。しかし、次の打ち手が明確にならない。この状態では、意思決定は常に後手に回ります。

一方で、モニタリングが機能している組織では、
・最新の着地見通しが継続的に更新される
・KPIの変更(更新)に対する要因と打ち手が提示される
・複数のシナリオを前提とした議論が行われる

結果として、経営会議は「未来に対する意思決定の場」となります。モニタリングの質が、そのまま意思決定の質とスピードを規定するのです。

キャピタルアロケーションは「運用」されるべきもの

キャピタルアロケーションもまた、一度決めて終わるものではありません。
・投資は計画通りの成果を上げているか
・前提条件に変化はないか
・資源配分は適切なままか
こうした問いに対し、モニタリングを通じて継続的に検証し、必要に応じて見直していく必要があります。

例えば、
・投資の進捗が想定を下回る場合、追加投資か縮小かを判断する
・想定以上の成果が出ている領域に資源を再配分する
・環境変化を踏まえて優先順位を組み替える
といった意思決定が求められます。

すなわち、キャピタルアロケーションとは、モニタリングと一体となった継続的な最適化プロセスです。

「攻め」と「守り」は設計できる

「攻め」と「守り」は、しばしば対立概念として語られます。しかし実際には、どちらかを選ぶ問題ではありません。
・成長投資がなければ将来価値は生まれない
・財務の健全性がなければ投資は継続できない

重要なのは、両者をどのように組み合わせるかです。アバントでの実体験からも、この「設計」の重要性を強く感じています。

多くの企業において最大のボトルネックとなっているのは、「意思決定のための情報」そのものの不足です。データが部門ごとに散在しており、月次決算に時間がかかる。結果として経営会議に出てくるのは「過去の実績」までで、「今期どこに着地するのか」「投資は計画通り進んでいるのか」といった、本来意思決定に必要な情報が揃わない。この状態では、攻めと守りのバランスを設計する以前に、判断の拠り所が存在しません。

一方で、統制のプロセスとデータ基盤が整備された企業では、同じ議論がまったく異なる質で行われます。将来見通しと具体的な数値を前提に、「どこに投資すべきか」「どこを抑制すべきか」が議論されるようになります。
つまり、「攻め」と「守り」のバランスは、CFOの経験や勘に委ねられるものではありません。経営管理の仕組みによって支えられるべき、“設計できるもの”なのです。

CFOという存在の本質

ここまで見てきたように、CFOの役割は単なる数値管理ではありません。
・戦略をKPIに翻訳し(シリーズ 第2回
・実行状況をモニタリングし
・資源配分を見直し続ける
この一連のプロセスを通じて、企業価値の向上を実現します。

CFOとは、キャピタルアロケーションとモニタリングを連動させ、変化する前提の中でも資源配分を更新し続ける存在です。そしてその積み重ねこそが、「攻め」と「守り」を同時に成立させる企業経営の土台となります。

次回予告

シリーズ「CFOとして求められる役割」最終回となる第4回では、こうして社内で磨き込まれた戦略と意思決定を、資本市場へどのように届けていくかをテーマに取り上げます。
CFOは、社内の意思決定を支えるだけでなく、企業価値向上のストーリーを投資家に伝える役割も担います。その橋渡し役となる「物語の翻訳者」としてのCFOについて整理します。

本稿の執筆者

諸井 伸吾
コンサルティングファーム、ファンド、事業会社での経営企画や事業本部長、COOを経験し、2022年4月より企業経営に役立つ情報システムを探求し続けてきたアバントグループに参画。
現在はアバントグループCSO/IR室長、アバントCFO/取締役、VISTA取締役として戦略実現に取り組む。

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