投資家に響く資本コスト経営【第1回】実質化するガバナンス改革とエクイティストーリーの構築
東京証券取引所(以下、東証)の要請などを背景に、コーポレートガバナンス改革は形式的な体制構築から実質的な企業価値向上への取り組みへと移行しています。
自社株買いなど、表面的なPBR改善策のみで持続的に価値を向上することは困難であり、取締役会における本質的な戦略議論、そしてデータによる裏付けが不可欠です。
本コラムでは、株式会社アバントグループ CSO(株式会社アバント / 株式会社VISTA 取締役)諸井伸吾が、資本コスト経営の実態を踏まえつつ、投資家が評価する資本コスト経営の要諦について、理論と実務の両面から3回にわたって解説します。
第1回の本稿では、多様な投資家の視点を理解し、数値に裏付けられた蓋然性の高いエクイティストーリーを構築するための要点を紐解きます。
ガバナンス改革における「形式」から「実質」への移行
コーポレートガバナンス改革のフェーズは、機関設計などの制度対応を中心とした段階から、持続的な企業価値向上を問う段階へと明確に変容しています。
ここでは、東証要請の背景と取締役会に求められる役割の変化を整理します。
東証要請が求める経営管理の変革
2015年のコーポレートガバナンスコード導入以降、日本企業では指名・報酬委員会の設置や社外取締役比率の向上といった体制、すなわち「形式面の整備」が進められてきました。
しかし、2023年に東京証券取引所が資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応を要請して以降、市場が企業に求める水準は一段と引き上げられました。
現在問われているのは、持続的な成長ストーリーの策定や価値創造プロセスの共有といった実質的な取り組みの有無です。
取締役会における戦略議論の深化と羅針盤の必要性
形式から実質への移行に伴い、取締役会における議論の質も変革を迫られています。過去の実績報告や目先の業績確認にとどまらず、未来の価値創造を示すデータに基づく戦略議論に時間を割かねばなりません。
経営陣が資本コストやROICを意思決定の羅針盤として使いこなし、それを基準に事業ポートフォリオの入れ替えや投資判断を下せているかどうかが、実質的な議論を成立させる要件となります。
投資家の属性と重視するファイナンス指標の差異
資本市場との対話を深める前提として、自社の株主やターゲットとなる投資家の属性を正しく把握する必要があります。
投資スタイルによって、企業評価において重視する指標や期待値は大きく異なります。
グロース投資家が求める成長の蓋然性
グロース投資家は、市場平均を上回る高い売上成長率や市場シェアの拡大を何よりも重視します。足元の利益水準が低くとも、将来の大きな成長が見込める企業を高く評価する傾向にあります。
彼らが注視するのは、その成長シナリオの蓋然性や、将来における確実な収益化の道筋です。
バリュー投資家およびGARPが注視する資本効率と利益成長
バリュー投資家は、低PBRや保有資産の価値、安定した配当を重視します。成長性よりもアセットの用途に関心があり、蓄積された資産の活用方法や株主還元の意思を企業に確認しようとします。
一方、GARP(Growth At Reasonable Price)と呼ばれる投資スタイルは、EPS(1株当たり利益)の成長とPER(株価収益率)のバランス、すなわち利益成長の質を評価の軸に据えます。
投資家タイプにより重視する指標は分かれますが、自社のROICが資本コストを上回り、かつスプレッドが持続するかという点は、あらゆる投資家に共通する関心事です。
数値に基づくエクイティストーリーの重要性
投資家の期待値を理解した後は、それに合致する自社の成長シナリオを構築する段階に入ります。
定性的なビジョンにとどまらず、財務数値に裏付けられた実行力のあるストーリーが求められます。
投資スタイルに合致した戦略シナリオの構築
自社に関心を持つ、あるいはターゲットとすべき投資家のスタイルに合わせ、彼らが重視するポイントを的確に捉えたエクイティストーリーを構築するプロセスが不可欠です。
企業の成長ステージや資本効率の現状によって、集まりやすい投資家の属性は傾向に現れます。高成長期にはグロース投資家が集まり、資産効率の改善余地が大きいフェーズではバリュー投資家の関心が集まりやすいものです。すなわち、自社の現在地を映す鏡とも言い換えられます。だからこそ、エクイティストーリーの構築は「誰に向けて語るか」を起点に設計する必要があります。
戦略の実行力を数値で裏付ける経営管理体制
投資家との対話において、定性的なビジョンだけでは評価は得られません。提示する成長シナリオには必ず数値の裏付けを持たせ、実行の蓋然性が高いことを客観的に証明する必要があります。
証明するためには、自社の実績と見通しを正確に把握・分析できる経営管理の土台が必要です。ストーリーの説得力を裏付けるデータもまた不可欠です。
まとめ
投資家は多様ですが、全員が共通言語としてファイナンスで企業を評価しています。自社のステージがどこにあるかを直視し、それに対応した投資家の期待に応えるシナリオを数値込みで描く。この作業を省いたまま「戦略がある」と言っても、市場には伝わりません。
次回は、そのシナリオを実際に機能させる上で多くの企業が直面する「2つの断絶」の構造と、その解消アプローチについて掘り下げます。
投資家に響くエクイティストーリーの構築には、グループ全体の経営情報を正確に把握する基盤の整備が必要です。
アバントのグループ経営管理システムは、高度な情報収集と分析を実現します。システム統合やデータ基盤の構築について、ぜひご相談ください。
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アバントグループ CSO/IR室長、アバント CFO/取締役 諸井 伸吾
コンサルティングファーム、ファンド、事業会社での経営企画や事業本部長、COOを経験し、2022年4月より企業経営に役立つ情報システムを探求し続けてきたアバントグループに参画。現在はアバントグループCSO/IR室長、アバントCFO/取締役、VISTA取締役として戦略実現に取り組む。
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