投稿日:2026.04.09
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インタビュー

【一橋大学大学院・野間教授に聞く】株価を下げるボラティリティの正体とリスクコントロール経営

業績が良ければ企業の評価は高くなると考えるのが自然ですが、実際には好決算であるにもかかわらず株価が下落してしまうケースも少なくありません。
その背景には、投資家が企業価値を割り引く要因となる「ボラティリティ」の存在があります。想定外の好決算といった一見良いサプライズが、ボラティリティの上昇を招き、結果的に株価下落につながることもあるため注意が必要です。

そこで今回は、一橋大学大学院 経営管理研究科教授の野間幹晴(のま みきはる)氏にインタビューを実施。企業価値と密接に関わるボラティリティのメカニズムと、それをコントロールするための経営戦略についてお伺いしました。

野間 幹晴氏

一橋大学大学院経営管理研究科経営管理専攻 教授、同大学役員補佐(社会連携)

専門は財務会計、企業価値評価。2002年3月一橋大学大学院商学研究科博士後期課程修了、博士(商学)。著書『退職給付に係る負債と企業行動-内部負債の実証分析』(日経·経済図書文化賞)、『業績予想の実証分析 企業行動とアナリストを中心に』(日本公認会計士協会学術賞)や『二項動態経営 共通善に向かう集合知創造』等

株価を動かす要素とは?投資家が見ている「リスク」の正体

企業の株価は日々変動しています。株価の動きは投資家における需要と供給によって決まりますが、その土台となるのは企業価値への評価です。
企業価値とは、将来生み出されるキャッシュフローを現在価値に割り引いたものです。投資家は成長見通しと同時に、「将来キャッシュフローの確からしさ」という観点からリスクも織り込んでいます。

ここでいうリスクとは、単なる損失の可能性ではなく、将来予測がどの程度変動しそうかという不確実性を意味します。この振れ幅の大きさを示す指標を「ボラティリティ」といい、一定期間における株価の変動率を表す言葉です。変動率の振れ幅が大きいほど「ボラティリティが高い」といいます。ボラティリティが高いということは、投資家の間で将来見通しのばらつきが大きく、株価が大きく動きやすい状況であるといえます。

また、事業環境の急変や戦略転換といった非連続的な変化も、投資家の評価を揺さぶる要因となります。株価は業績の良し悪しだけで決まるのではなく、こうしたリスクの質と大きさを反映しながら形成されているのです。

※企業価値については下記をご参照ください。
企業価値とは?役割や評価方法、企業価値を高めるメリットを解説

なぜ、「良いサプライズ」でも株価は下がるのか?

期初に会社が開示した予想を上回る業績は、一般的に好ましいものとして受け止められがちです。しかし野間氏は、「大幅な上振れが必ずしもプラス評価につながるとは限りません」と指摘します。
野間氏は、大幅な上振れがマイナス評価につながる理由は主に3つあるといいます。

「1つ目は『予見可能性の低さ』です。なぜそのような大きなサプライズが生じたのか、期初予想を開示した時点で織り込めなかったのはなぜか。経営管理上の予測精度や、ガイダンス能力に疑問が生じます。

2つ目は、『期初予想の信頼性に対する懸念』です。期初予想を保守的に出す企業もあります。もし大幅な上振れが継続すれば、意図的に低い予想を出しているのではないかという疑念を持たれかねません。

3つ目は、『利益の“先食い”に対する警戒』です。例えば第3四半期で大幅な増益を達成したとしても、それが第4四半期や翌期の利益を前倒ししているだけかもしれません。今期の上振れが来期の下振れにつながるのであれば、全体として業績の変動幅が大きくなります。結果としてボラティリティが高まり、リスクの高まりを反映して割引率が上がることで、企業価値が押し下げられます」

さらに野間氏は、もう1つの重要な視点を挙げます。それが「市場予想との比較」です。

「会社の予想を上回っていても、アナリスト予想を下回れば株価は下落します。投資家が基準としているのは会社予想だけではありません。特に、バリュー株(割安株)に比べてグロース株(成長株)は、アナリスト予想未達時の下落幅が大きくなる傾向があります」

このように、大幅な業績の上振れであっても、それが予見可能性の低さや再現性への疑念を伴う場合、投資家はむしろリスクの高まりと捉えます。
企業価値は、成長率の高さだけで決まるものではありません。投資家が見ているのは、「成長の質」「再現性」だと、野間氏は強調します。

ボラティリティが高くても評価される企業の特徴

野間氏が言うように、業績の大幅な上振れは、時としてボラティリティの上昇を招きます。ただし、「ボラティリティが高いこと自体が悪いわけではありません」と続けます。

「ボラティリティには、投資家が許容できるものと、許容できないものがあります。許容できるかどうかの違いは予見可能性です。例えば、為替変動や季節性、新規事業への投資フェーズなどは、外部環境や事業特性としてある程度予測が可能です。こうした説明可能なボラティリティは、投資家側も事前に想定しているため許容されやすいでしょう。

一方で、投資家が嫌うのは、説明不能なボラティリティです。突然の想定外の業績乖離や、戦略・KPIの頻繁な変更などは、投資家にとって予見できません。経営者の頭の中では想定内であっても、投資家に伝わっていなければ意味がないのです。予測できない振れは、リスクとして大きく割り引かれます」

では、ボラティリティが高くても投資家から評価を受ける企業には、どのような特徴があるのでしょうか。野間氏は、2つの特徴を挙げます。

「第一は、構造的な成長市場に属していることです。業績変動が大きい産業であっても、中長期的に見れば市場全体が拡大している場合があります。近年では、半導体・AI関連産業が該当するでしょう。業績の振れ幅が大きくても、それを上回る期待成長が存在していれば、株価は右肩上がりになります。

第二は、戦略の独自性、言い換えると“模倣困難性”の高さです。マルチプル(企業価値の評価に用いられる指標)が高い企業は、単にROEやROICが高いだけではありません。その水準がなぜ維持できるのか、という根拠が明確なのです。戦略に独自性があり、競合が簡単に真似できない。あるいは、真似したくないほど特殊性が高い。そうした模倣の困難性が、再現性の裏付けになります」

投資家からの評価が高い企業の共通点として、野間氏は、「開発力やブランド力だけでなく、それを繰り返し収益化する仕組みを持っていること」と指摘します。

「重要なのは一過性の高成長ではなく、再現性の高さです。現在の戦略やビジネスモデルが、どれだけ持続可能で、どれだけ独自性を持つのか。そこに対する確信が持てれば、ボラティリティが高くても評価は下がりません」

変動幅をどう計算し、株価から割り引くか

業績のボラティリティが大きい企業は、実際の株価算出においてどのように評価されるのでしょうか。バリュエーションの現場感覚について、野間氏に聞きました。

「高ボラティリティの影響は大きく2つあります。1つ目は資本コストです。ボラティリティが高い企業は、株主資本コストが高く設定されます。ERP(エクイティ・リスク・プレミアム)を引き上げることで、結果的に資本コストが上がる。つまり、将来キャッシュフローに適用される割引率そのものが高くなります。
もう1つは、ターミナルバリューです。予測期間の最後に設定する長期成長率、いわゆるターミナル成長率を下げるという形で織り込まれます。足元で高成長が続いていても、それが長期にわたって持続するとは限りません。不確実性が高い場合は、その持続可能性に対して慎重に見られます。これも実質的なディスカウントです」

では、数値以外の要素が「ボラティリティリスク」と見なされることはあるのでしょうか。野間氏は「投資家が許容するのは説明可能なボラティリティです」と、改めて強調します。

「ボラティリティがあること自体は投資家も理解しています。しかし、予見できない、説明されない変動は『ボラティリティリスク』と認識されます。例えば、経営者の発言が二転三転したり、情報開示のタイミングが遅れたりすれば疑心暗鬼を招き、将来の不確実性として評価に織り込まれます」

背景にあるのは、経営者と投資家との間に起こる認識のギャップです。

「経営者が自信をもって打ち出した施策でも、投資家が期待している成長シナリオや資本配分の方向性とずれていれば、ボタンの掛け違いが起こります。また、抽象度の高すぎるメッセージは、かえってネガティブに評価されることもあります。
重要なのは、投資家が自社をどのようにバリュエーションしているのかを理解することです。目標株価の水準ではなく、『どういうロジックで評価されているか』を把握する必要があるでしょう」

ボラティリティを制御する業績予想の出し方

ボラティリティを完全に消し去ることはできません。しかし、その「見え方」や「評価のされ方」は、経営の姿勢次第で大きく変わります。
では、高ボラティリティやボラティリティリスクを招かないために、企業はどのようなアクションを取るべきなのでしょうか。

「まず、悪いニュースはなるべく早く出すこと。そして、ネガティブなショックがあった場合は、利益水準をレンジで公表することです。例えば、『営業利益がマイナス5%からマイナス10%程度』といった具合に、幅を持たせて定量的に示すことも選択肢の一つに含めてよいのではないでしょうか」

さらに野間氏は、より本質的な問題として、企業価値を生み出す構造に目を向けます。近年、ボラティリティが高まりやすい企業には共通点があるといいます。

「例えば製薬企業など、無形資産が企業価値の決定因子になっている会社は、どうしても業績がぶれやすくなります。有形資産中心のビジネスであれば、会計上の期間区分と事業活動のリズムが比較的整合しやすいものです。それに対して、無形資産中心の企業では、開発の遅れなどが起こりやすく、四半期や単年度で区切る会計と本質的に相性が良くない面があります」

事業構造の転換を進めている企業も同様です。従来型のビジネスモデルから、無形資産主導型へとシフトする過程では、業績の振れ幅は大きくなりがちです。

「だからこそ重要なのは、丁寧な開示です。ここでいう丁寧とは、定性的なストーリーを語るだけではなく、できる限り定量的に説明することです。ビジョンを示すと同時に、どのKPIがどのように価値創造につながるのかを明らかにする。蓋然性を高める努力が必要です」

日本企業に多い「保守的な業績予想」についても、野間氏は注意を促します。

「期初に低めの予想を出し、その後に上方修正を重ねる『貯金戦略』を行う企業は少なくありません。しかし、予測誤差が大きい企業は、期初予想の信頼性が低いと見なされます。決算のたびにどの程度修正されるのか予測できない状況は、ボラティリティそのものです」

業績予想とは、単なる数値目標ではなく、投資家との「期待値調整」のツールでもあります。過度に保守的でも楽観的でもなく、前提条件とレンジを明示しながら対話を重ねること。その積み重ねが、株価の乱高下を抑えることにつながるでしょう。

ボラティリティと向き合う経営の本質

株価は、業績の水準だけでなく、その再現性や予見可能性によって評価されています。たとえ好決算であっても、背景が十分に説明されなければ、不確実性として受け止められることもあります。大切なのは、ボラティリティをなくすことではなく、その要因を丁寧に示し、投資家との認識のずれを小さくしていくことです。ボラティリティを単なる揺れとして恐れるのではなく、説明可能な成長ストーリーに変える情報開示と対話力こそが、企業価値を高めるカギであり、投資家との信頼関係を築く経営戦略となります。

投資家との対話によってボラティリティをコントロールするには、しっかりとした経営管理が欠かせません。自社の経営管理に課題を感じている方や経営管理システムの導入を検討している方は、以下よりお気軽にお問い合わせください。

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