【日本CFO協会の日置氏に聞く】経営判断の「解像度」を高める管理会計の再定義
変化の激しいビジネス環境で企業が成長を続けるには、迅速かつ的確な経営判断が求められます。そのような中、ますます重要な意味を持つのが、管理会計による経営支援です。しかし、多くの日本企業では、管理会計が本来の役割を果たしていないのが実情です。
管理会計を活用しきれない背景には、どのような要因があるのでしょうか。また、管理会計を経営の武器に変え、企業の持続的な成長につなげていくためには、どのような取り組みが必要なのでしょうか。
今回は、一般社団法人日本CFO協会/一般社団法人日本CHRO協会シニア・エグゼクティブ等を務める日置圭介(ひおき けいすけ)氏にインタビューを実施。日本企業の多くに見られる管理会計の課題と、改善に向けた実践的なアプローチについて伺いました。
日置 圭介氏
一般社団法人日本CFO協会/一般社団法人日本CHRO協会/一般社団法人日本CLO協会 シニア・エグゼクティブ
複数のコンサルティングファームを経て、現在は企業の顧問やアドバイザー、大学院講師、経済産業省委員などを務めている。ライフワークとして日本のグローバル競争力強化に向けた研究・発信活動も展開。
管理会計の重要性と本来の役割
管理会計とは、企業の経営者や管理者が意思決定を行うために活用する、社内向けの会計のことです。企業の会計は、その目的の違いによって、「財務会計」と「管理会計」に大別されます。
財務会計は、株主や取引先金融機関など、社外のステークホルダーに対し、企業の財務状況を報告することを目的としています。一方で管理会計は、経営者が適切な意思決定を行うために必要な情報をまとめ、活用することが目的です。管理会計は各企業が任意で取り入れるものであり、財務会計のような法的なルールはありません。管理会計の対象となる期間やフォーマット、必要な情報なども、組織によって異なります。
企業を取り巻く環境は常に変化しており、経営者はその変化に迅速かつ的確に対応しなければなりません。
管理会計は、単なる数値管理ではなく、戦略的な意思決定のための情報提供機能を担います。管理会計を活用することで、経営者は組織の現状を客観的に把握し、財務情報や業績などの指標に基づいて、今後の経営方針を策定することが可能になります。
しかし、多くの企業では、管理会計が本来の役割を果たせていないのが実情です。数値の集計や過去実績の報告にとどまり、経営判断や戦略立案に活かしきれていないケースも少なくありません。そのような現状について、日置氏は「管理会計に関する問題や課題は、少なくとも私が知るこの四半世紀変わっていないように感じます」と語ります。
「2000年代初頭と比較して、近年ではデジタル技術やツールがさらに発達しているので、さまざまなデータを効率よく収集・分析できるようになっているはずです。しかし、昔と変わらず、『手間と時間の割にあまり効果がない』『情報が見えてこない』といった悩みが多いのは変わりません。その根幹は、「組織の」業績を管理、評価する管理会計の在り方と、投資など「ビジネスの」大きな判断に必要な情報はそれほど一致していないということです。
もちろん、年度ターゲットの達成に向けたオペレーションレイヤーの意思決定や、次年度予算策定時のインプットなど活用できることもありますが、一般的な管理会計の枠組みにとらわれず、自社の経営、特にビジネスで勝つために必要な情報が何かを、今一度突き詰めて考えてみるべきでしょう」
※管理会計については下記をご参照ください。
管理会計とは?目的や財務会計との違い、導入のポイントを解説
管理会計の戦略的価値が発揮されない三つの要因
管理会計が単なる計算業務や形式的な報告に陥ってしまうと、その価値を十分に発揮することができません。管理会計の戦略的価値が損なわれてしまうのはなぜなのでしょうか。日置氏のお話から、次のような三つの要因が浮かび上がってきました。
管理会計の目的が「組織のモニタリング」になっている
本来、管理会計は経営の羅針盤として、将来の見通しや改善策を導くための仕組みであるべきです。しかし、日置氏によれば、日本企業の管理会計の実態は、「組織のモニタリング」であることがほとんどだといいます。
「組織としてのパフォーマンス管理は重要です。ですので、過去の実績を組織評価のためにまとめること自体否定することはありません。ただ、それはいわば“終わった数字”です。意思決定において本当に大切なのは、実績が固まるまでにどのようなアクションをとるか、ということです。つまり、管理会計の名の下に収集・分析しているデータが、経営上の意思決定に必要な情報になっていないのです。
例えば、多くの企業が管理会計の一環として予実管理を実施していますが、その結果を踏まえてリソースを配分するだけでは、真の意味での経営判断とはいえません。
しかし、そこから一歩踏み込み、ビジネスで勝つために必要な情報は何か、どのタイミングで提示するか、情報の精度と活用方法はどうあるべきか、といった視点で考えない限り、管理会計を意思決定に活かすことは難しいでしょう。単なる数字の管理にとどまらず、未来志向の情報活用が求められます」
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「アンダーコミット・オーバーパフォーム」を良しとする風潮
管理会計が組織業績管理の延長として運用された結果、現場が正しい情報を出しにくい構造が生まれることも、問題点の一つだと日置氏は指摘します。
「早い段階で正確な見通しを示すと、より高い目標を設定され、達成が難しくなるのではないか」という懸念から、“手の内を隠す”ような動きが生じてしまうためです。
「日本企業には『アンダーコミット・オーバーパフォーム』、つまり、控えめな目標を設定して結果的に上回ることで評価される傾向が根強くあります。しかし本来であれば、最初に設定した目標と実際の着地点が乖離している時点で、経営としての見通しの精度不足が問われます。もちろん、先のことを完全に見定めることはできませんが、海外では『将来を見通せていない』『リソース配分を最適化できなかった』と見なされ、経営の力量不足や収益機会の損失として批判の対象となります。
経営とは、限られたリソースをどこに投下するかという勝負です。もし各部門が本当の見通しを隠したまま控えめな数字を出すようでは、企業の成長につながる意思決定は難しくなってしまうでしょう」
管理会計を担う部署が限定的
管理会計が本来の役割を果たせない要因には、「管理会計を担う部署が限定的である」という問題も挙げられます。
「多くの企業では、管理会計は主には経理部門の、企業によっては経営企画部門の業務として位置付けられています。これまでにも述べてきたような組織業績管理がメインであればそれでもよいのかもしれませんが、単なる数値管理に終始してしまいがちです。かつては、製造業を中心に『原価管理を徹底すれば利益がついてくる』という時代もありました。しかし、事業環境の変動要素が増えた今、当たり前ですが原価を始めとするコストだけを見ていても企業価値の向上にはつながりません。
管理会計を、現代の経営環境に必要な情報を可視化し、戦略的な判断を支える仕組みにしていくのであれば、現状の担当部門だけで全てを担おうとするのではなく、各部門と連携してこそ、経営全体の最適化に近づけます。そのためには経営者自身が自分事として向き合うことが不可欠です」
管理会計を経営に活かすポイント
日置氏が述べたように、管理会計が形式的な数値報告に終始してしまう背景には、日本企業が抱えるさまざまな課題があります。
では、本当に必要な情報を把握し、管理会計を経営の武器に変えていくには、どのような取り組みを進めていけばいいかを日置氏に伺いました。
自社にとって必要な管理会計を再定義する
管理会計を経営に役立てるためには、まず「自社にとって本当に必要な管理会計とは何か」を再定義することが重要だと日置氏は語ります。
管理会計が組織をモニタリングするための仕組みにとどまっていては、変化の激しい市場で勝ち抜くことはできません。意思決定において求められるのは、過去の一時点を切り取った静態的な情報よりも、時間軸の変化に応じて将来の勝ち筋を見極めるための動態的な情報です。
「そのための基盤となるのが、『ビジネスで勝つ』『利益を上げる』という経営者の強い思いです。経営者であれば誰もが事業と真剣に向き合っているとは思いますが、さらに解像度を上げていく必要があるでしょう。事業に対する解像度が上がれば、必要な情報もおのずと見えてきますし、それを各部門へ明確に伝えることもできます」
管理会計にはさまざまな手法があり、顧客別、チャネル別、商品別など、業種や業態によって着目すべきセグメントも変わります。ただ、日置氏は、「ある程度共通したフォーマットはあるものの、他社の手法が自社にとって有用とは限りません」と言います。
「組織管理に必要な情報と、意思決定に必要な情報は、重なる部分があったとしてもイコールではありません。従来の管理会計の概念を超え、経営者自らが『勝つために必要な情報は何か』という原点に立ち返ることが大切です」
情報の確度と透明性を高める
ビジネスに勝つために必要な情報が分かっても、その情報の確度が低ければ、意思決定に役立てることは難しいでしょう。しかし、未来を見据えて情報が動態的になればなるほど、どうしても確度は下がります。これからの企業経営には、そのような不完全な中でも、いかに情報の確度を上げていくか、というチャレンジが求められます。
「市場データはもちろん大事ですが、過去の実績データを基に、AIなどのツールを活用するのも一つの方法です。ツールをうまく使えば、将来に向けた予測精度を高めることもできるかもしれません。ただし、信頼に足る過去データを蓄積していることが大前提になります。
同時に、情報の透明性を高めるための取り組みも必要です。先ほどお話ししたように、多くの日本企業には『目標を高く設定されるのを避けて情報を出さない』という構造的な問題があります。各部門が出した情報に対して理不尽なハードルを課さないなど、経営側と現場側の信頼関係を構築し、オープンな情報共有の仕組みを作ることが大切です」
情報を一元管理し、社内の共通言語にする
さらに、管理会計を経営に活かす上での重要なポイントが、情報の一元管理です。
日置氏は、「先ほど述べた情報共有の仕組みも活用して、いかにして情報を全社の共通言語にできるかどうかがカギ」と語ります。
「その共通言語は、スタンダードレポートでもいいですし、データベースでもいいでしょう。共通言語を醸成する仕組みを整え、会議体などそれを実際に使う場面を設計する、というマネジメントプロセスの再構築が必要です。各部門がバラバラに情報を持っているだけでは、組織の力にはなりません。
多くの企業では、情報自体は豊富に存在していても、部門ごとに分断され、統合的に活用できていないケースが少なくありません。情報の透明性を高めた上で、共通言語化し、どの事業を、どのような位置付けで、どう動かしていくかを判断する――それが、経営を支える管理会計の姿ではないでしょうか」
従来の管理会計から脱却し、経営の武器となる情報を手に入れる
管理会計は単なる数値管理ではなく、経営の意思決定を支える重要な判断材料となるものです。変化の激しいビジネス環境にあって、管理会計の果たす役割はますます大きくなっていくでしょう。
その中で、日置氏が強調するのが、「ビジネスに勝つための情報」の重要性です。経営者自らがビジネスに対する解像度を高め、必要な情報を明確にすることで、組織のモニタリングにとどまらない「勝つための管理会計」が可能になるでしょう。
また、管理会計を経営に活かすには、情報の一元的・統合的な管理が不可欠です。
各部門に散在するデータを集約する上では、経営管理システムの導入・活用もおすすめです。「経営管理システム AVANT Cruise」なら、収集したデータを価値ある情報に加工し、経営管理に役立てることができます。
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