最終更新日:2024.10.23
管理会計とは?目的や財務会計との違い、導入のポイントを解説

企業が持続的に成長するには、営業活動、投資活動、財務活動において発生するお金の出入りを正確に記録し、事業活動を定量的に把握して正しい経営判断をする必要があります。そのために必要なのが、企業の経済活動を記録・管理して、財政状態や経営成績の判断に活かす企業会計です。企業会計には「管理会計」と「財務会計」があり、それぞれ行う目的が異なります。
本記事では、管理会計の目的や実施するメリット・デメリット、導入時のポイントの他、財務会計との違いについて解説します。
1)管理会計とは社内向けにまとめる会計のこと
管理会計とは、意思決定や戦略立案に役立てるために必要な情報をまとめた会計情報のことです。製品別の収益性やコスト分析、部門別の業績評価など、経営者や管理職が経営管理を行う際に欠かせないデータとして活用するために行われます。管理会計は英語で「Management Accounting」であり、まさに経営をマネジメントするための会計といえるでしょう。
なお、管理会計は法律によって定められた形式や基準はありません。あくまでも任意で行うもののため、企業の経営目標に応じて柔軟に対応できる点が大きな特徴です。
そのため、会計の対象となる期間やフォーマット、管理会計に必要な情報は組織によって異なります。
2)管理会計の目的
管理会計の目的は、経営者が適切な意思決定を行うために必要な情報をまとめ、活用することです。企業を取り巻く環境は常に変化しており、経営者はその変化に迅速かつ的確に対応しなければなりません。また、適切な意思決定のために重要となるのは、組織の現状を把握することです。
管理会計を活用することで、経営者は組織の現状を客観的に把握し、財務情報や業績などの指標に基づいて、今後の経営方針を策定することが可能になります。
企業の競争力を高めるためにも、タイムリーな情報を提供する管理会計は欠かせない要素といえるでしょう。
3)管理会計の主な業務
管理会計の内容は自由にカスタマイズできるため、企業によって含まれる業務が異なります。
管理会計の主な業務は、「予実管理」「原価管理」「経営分析」「資金繰り管理」の4つです。
予実管理:予算と実績を比較し、管理する
予実管理とは、予算と実績を比較検討し、目標に対する進捗を把握したり、ボトルネックを改善したりするために行う活動のことです。
企業は、経営目標の達成に向けて年度の予算を組み、さらに、最終的な目標を達成するための短期・中期・長期の事業計画を立て、各期間に予算を割り振ります。一定期間ごとに立てた予算と実績を比較し、全体の進捗を管理することが大切です。
また、管理を行うことで、業績に対する評価や改善、コスト削減などができるようになり、企業経営の安定につながる他、社内に共通のゴールが設定でき士気の向上も望めます。
※予実管理については下記をご参照ください。
予実管理とは?行う目的やサイクル、効果的に行うポイントを解説
原価管理:製品やサービスを提供するためにかかるコストを管理する
原価管理とは、製品やサービスを開発し、市場に流通するために必要な材料費や人件費、設備費といった原価を管理することです。「コストマネジメント」と呼ばれることもあります。
原価管理を行うと、売上に直接影響する経費の妥当性を客観的に判断でき、無駄なコストを見極められます。また、予算として掲げた目標の原価と実際の原価を比較することで、価格設定の見直しを図ることもできるでしょう。
目標とする原価と現時点の原価との差異を分析してコントロールすることで、より多くの利益が得られるようになります。
経営分析:経営状況を可視化できる情報を分析し、経営に活かす
経営分析とは、財務諸表や調査報告などから得られる情報を分析して企業の状況を把握し、経営に活かすことです。
経営分析では、経営状況を可視化できるこれらの情報を「収益性分析」「安全性分析」「生産性分析」「成長性分析」「損益分岐点」などの観点から分析することが重要とされています。客観性を持った分析により、資産や成長率などを把握でき、企業の課題解決や経営戦略に生かすことができるのです。
資金繰り管理:収入と支出を管理し、過不足を調整する
商品やサービスの売れ行きが好調で、帳簿では利益が上がっている状態であっても、運転資金が不足していると、いわゆる「黒字倒産」になる可能性があります。企業の経営を健全に保ち、将来的な資金不足を防ぐために行うのが、資金繰り管理です。
企業の収入と支出を月ごとに把握できるよう「資金繰り管理表」を作成し、将来的な資金の予測を立てます。
もし資金繰り管理がうまくいかず、資金不足が予測される場合には、資産の売却や過剰在庫の削減、金融機関から融資を受けるなど、資金調達のための対策が必要です。
4)管理会計と財務会計の違い

企業会計には、管理会計の他、財務会計もあります。どちらも企業経営を支える上で重要な会計手法ですが、目的や対象が異なります。
管理会計は、経営者が意思決定や戦略立案を行うための情報を提供するために、社内向けにまとめるものです。例えば、製品・サービス別の収益性やコスト分析を通じて、どの製品・サービスに注力すべきかを判断する際に役立ちます。
一方、財務会計は社外向けに行う会計手法です。株主や取引先金融機関など、社外のステークホルダーに対し、企業の財務状況を報告することを目的としています。管理会計は企業の任意で行われるのに対し、財務会計は法律で定められており、会計基準に準拠した財務諸表を作成しなければなりません。
管理会計と財務会計の主な特徴を比較すると、右記のとおりです。
5)管理会計を行うメリット
管理会計は、法律で義務付けられているものではありません。それでも管理会計を行う企業が多いのは、さまざまなメリットがあるからです。
ここでは、管理会計を行うメリットについて紹介します。
的確な経営判断に活かせる
安定的に事業運営している企業や、継続的な成長を遂げている企業の多くは、管理会計の仕組みを導入しています。なぜなら、自社の状況に応じてカスタマイズした管理会計を行うことで、客観的かつ定量的に自社の経営状況を判断できるからです。
管理会計を導入し、予実管理や原価管理、資金繰り管理などを行うことで、より実態に即した情報を得ることができます。それにより、いずれ経営を圧迫しかねない業務プロセスや、不適切な経営資源の配分などに早期に気づき、速やかに適切な経営判断が可能です。
事業や部門ごとの評価軸が明確になる
管理会計によって、事業や部門ごとの評価軸が明確になることもメリットの一つです。
管理会計を行う際、経営管理を踏まえて事業や部門といったセグメント別に業績管理をすると、現状をスムーズに把握できます。管理会計の情報を基に、利益が出ている事業や部門には積極的な投資やリソースの配分を、反対に採算が見込みにくい事業や部門は縮小や撤退などの経営判断が可能です。
経営判断に基づき、各事業・部門の方向性を明確にすることで、適切な目標や評価軸の設定にもつながります。
コストの最適化を図れる
管理会計で事業や部門などセグメント別に業績管理をすることは、コストの最適化を図れる上でもメリットです。
各セグメントの現状や成果から予算を設定し、さらにその進捗や達成具合を確認することで、製品・サービスの運用にかかったコストを把握できるでしょう。
製品やサービスの開発から提供までのどの部分でコストがかかっているのか、費用対効果はどうなっているかといったことを評価することにより、不要なコストの削減にもつながります。
6)管理会計を行うデメリット
管理会計を行うことは、企業経営において複数のメリットがある一方、デメリットもあります。導入する際には、下記のデメリットを理解しておくことが大切です。
各部門の負担が増える
管理会計を行うデメリットの一つは、企業内の各部門に負担が増えることです。経理担当者だけでなく、各事業部やシステムに関わるIT部門も多大な労力を要します。
例えば、管理会計のために必要なデータを収集・分析する際、各部門の業務に追加の負担がかかり、本来の業務に集中できなくなる可能性もあるでしょう。
企業の目的に適した手法の選定が難しい
管理会計は企業の任意によって、内容や会計期間などを決めることができます。企業が柔軟に対応できるからこそ、適切な管理項目や期間などを選定することが難しい場合がある点も、デメリットの一つです。
組織に適していない形で管理会計を運用してしまうと、必要なデータが管理されなかったり、重要でない項目に過剰なリソースを割いてしまったりするおそれがあります。
また、管理会計は大量のデータを基にするため、そのデータの信頼性が低い、またはタイムリーな情報が得られない場合には、誤った意思決定につながるリスクが高まるでしょう。データの分析手法も、企業の目的に合致していなければ、適切な経営判断は困難です。
7)管理会計を導入する際のポイント
管理会計を適切に行うためには、導入の際に押さえておきたいポイントがあります。
前述したデメリットを解消するためにも、下記のポイントを確認しておきましょう。
繁忙期の導入は避ける
管理会計を導入する際には、タイミングとシステムの選定が重要なポイントとなります。繁忙期の導入は避け、比較的落ち着いている時期を見極めてスモールスタートで始めるのが効果的です。
例えば、年度末やプロジェクトの締め切りが集中する時期ではなく、業務が比較的穏やかな時期に導入を開始することで従業員の負担を軽減し、スムーズな移行を図ることができます。また、導入時に現場の負担を軽減するため、事前に管理会計を行う目的を共有し、研修を実施しておくことが望ましいでしょう。
管理会計システムの導入を検討する
管理会計を効果的に行うためには、適切なシステムの導入も検討しましょう。
管理会計はデータの収集・加工が肝となるため、特にデータ量が多い企業では、リアルタイムで正確なデータが得られるシステムを活用することが重要です。組織内のデータを一元管理できるシステムを導入することで、ヒューマンエラーを防ぐとともに、現場の負担も軽減できます。
ただし、システム導入には一定のコストがかかるため、導入前に目的意識を組織内で共有し、まずは一部の部門で試験的に導入するなど、スモールスタートで始めるのがおすすめです。初期段階でどのような数値が把握できるかを明確にし、システムの活用メリットを実感できれば、組織全体に導入を広げる際のハードルが下がることが期待できます。
※データの一元管理については下記をご参照ください。
一元管理とは?企業経営における管理の対象や行うメリットなどを解説
8)管理会計システムの導入で、迅速かつ的確な経営判断と適切な経営管理を
管理会計を行うことで、全体の業績や部門ごとの業績、そして会社の経営状況を客観的に判断し、有用な経営戦略を立てることができます。
部門別、事業別、サービス別、製品別といったセグメントごとに情報を収集・分析すれば、財務諸表では把握できなかった問題をピックアップすることも可能です。
ただし、導入によって生じる現場の負担には、配慮が求められます。現場への負担を軽減でき、リアルタイムでの情報把握や分析に役立つ管理会計システムの導入も視野に入れましょう。
・アバントの管理会計システムについては下記をご参照ください。
AVANT Cruise
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