SSBJとは?ISSB基準との関係と日本企業が押さえるべき開示のポイント
2025年3月に公表された日本版のサステナビリティ開示基準「SSBJ基準」について、2026年2月の内閣府令改正により、プライム市場の上場企業を対象に2027年3月期から段階的な義務化が確定しました。経営層をはじめ、経営企画・財務・サステナビリティ推進の各部門にとって、早い段階で全体像を把握しておくことが重要になります。
本記事では、SSBJ基準と国際基準であるISSB基準との関係、SSBJ基準を構成する3つの基準、4つのコア・コンテンツ、適用スケジュール、実務対応のポイントについて解説します。
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SSBJ基準とは、ISSB基準を日本の法制度に適合させたサステナビリティ開示基準
SSBJ基準とは、国際的なサステナビリティ開示基準(ISSB基準)を日本の金融商品取引法や企業実務に合わせて整備した日本版のサステナビリティ開示基準です。サステナビリティ基準委員会(SSBJ:Sustainability Standards Board of Japan)が策定し、2025年3月に確定・公表されました(2026年3月13日改正)。
まずはSSBJ基準とISSB基準の関係、そしてSSBJ基準が策定された背景を整理します。
SSBJ基準とISSB基準との関係
ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)は、IFRS財団(国際財務報告基準財団)内に2021年に設立された国際的な組織です。同審議会は、投資家をはじめとする資本市場参加者の意思決定に資する、国際的に比較可能なサステナビリティ開示基準を策定することを目的としています。これまでに「IFRS S1号(サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項)」と「IFRS S2号(気候関連開示)」を公表しました。
SSBJ基準は、IFRS S1号・S2号からなるISSB基準を日本向けにローカライズしたものであり、内容の大部分はISSB基準と整合しています。同時に、日本の金融商品取引法や会計制度・商慣行に合わせた修正が加えられており、日本企業が実務で適用しやすい形に整備されています。ISSB基準との高い整合性を保ちつつ、日本の法制度に対応している点が特徴といえるでしょう。
SSBJ基準が策定された背景
従来、上場企業は有価証券報告書において財務情報の開示を義務付けられていました。近年はこれに加えて、非財務情報も投資判断を大きく左右するようになっています。2005年に当時の国連事務総長コフィー・アナン氏が世界の機関投資家に協調を呼びかけたことをきっかけに、2006年にPRI(責任投資原則)が発足しました。このPRIへの署名機関は2025年時点で5,261機関に上るなど、投資家が企業にESG課題の開示を求める動きが拡大しています。
しかし、開示の形式や基準が企業ごとにばらばらでは、投資家による比較や評価が困難です。各社のサステナビリティへの取り組みや気候変動リスクへの対応状況を客観的に比較するためには、開示基準が統一されていなければなりません。
こうした状況を改め、投資家をはじめとする資本市場参加者が横断的に比較・判断できる統一基準を整備するために、SSBJ基準が策定されました。グローバルな資本市場で日本企業の信頼性と競争力を高める観点からも、SSBJ基準への対応は、単なる開示実務ではなく経営戦略に関わるテーマといえます。
※非財務情報開示の重要性については下記をご参照ください。
【早稲田大学商学学術院 大鹿智基教授に聞く】非財務情報開示がもたらす企業価値向上効果とは?専門家が語るサステナビリティ経営戦略
SSBJ基準の3つの構成
SSBJが公表する「サステナビリティ開示基準」は、次の3つで構成されます。各基準がカバーする範囲と役割を理解した上で、自社の対応準備を進めることが重要です。
<SSBJ基準の構成>
適用基準(サステナビリティ開示ユニバーサル基準)
適用基準は、IFRS S1号「サステナビリティ関連財務情報の開⽰に関する全般的要求事項」のうち、コア・コンテンツ以外の共通事項に対応する基準です。
用語の定義、機密情報の取り扱い、開示すべき事項の範囲、開示のタイミングなど、すべての企業に共通して適用される基本的なルールを定めており、サステナビリティ開示全体の骨格となります。一般開示基準・気候関連開示基準と併せて適用されることが前提であり、まずこの適用基準を理解することが対応の出発点です。
一般開示基準(サステナビリティ開示テーマ別基準第1号)
一般開示基準は、IFRS S1号のコア・コンテンツに相当する部分に対応し、企業の見通しに影響を与えるサステナビリティ関連のリスクおよび機会に関する情報開示を定める基準です。人的資本、生物多様性、コンプライアンス、サイバーセキュリティなど、企業ごとに重要性(マテリアリティ)が異なるテーマについての開示要件を定めています。
自社にとって重要なサステナビリティテーマを特定し、そのリスク・機会を中心に一般開示基準に基づいて開示するという構成になっており、気候変動のように特定テーマが画一的に義務化されているわけではありません。そのため、業種・事業特性・ステークホルダーの関心に応じた柔軟な開示設計が求められます。
気候関連開示基準(サステナビリティ開示テーマ別基準第2号)
気候関連開示基準は、IFRS S2号「気候関連開示」に対応する基準です。温室効果ガス(GHG)排出量(スコープ1~3)、内部炭素価格、物理的リスク・移行リスク、シナリオ分析など、気候関連の情報開示を包括的に定めています。また、本基準はTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)のフレームワークを継承・発展させた内容である点も重要です。
TCFDは2023年に解散してIFRS財団に役割を引き継いでおり、本基準はその実質的な後継として位置付けられます。これまでTCFDへの取り組みを進めてきた企業は開示の骨格を流用できますが、スコープ3の詳細算定やシナリオ分析の要件がより厳密化されている点には注意が必要です。
なお、スコープ3については、適用初年度の開示を免除する経過措置が設けられており、企業が段階的に対応を進められるよう配慮がされています。
SSBJ基準の4つのコア・コンテンツ
SSBJ基準では、一般開示基準・気候関連開示基準に共通して、4つのコア・コンテンツの開示が求められます。これらはISSB基準・TCFDの枠組みを踏まえており、いずれも既存の経営管理の仕組みと結びつけて開示することが、実務上のポイントになります。
ガバナンス
ガバナンスでは、サステナビリティに関するリスクおよび機会を管理・監督するための経営体制を開示します。具体的には、取締役会や委員会などの監督責任者の役割と責任、担当者のスキル・コンピテンシー、情報を入手する手段・頻度、経営者の役割などが開示対象です。
単なる委員会の設置状況を列挙するのではなく、誰が・どのような権限で・どのような頻度でサステナビリティ課題を経営に反映させているかを具体的に示すことが求められます。体制の設置状況だけではなく、サステナビリティ課題が実質的に経営の意思決定に組み込まれていることを示す開示が不可欠です。
戦略
戦略では、企業が把握しているサステナビリティ関連のリスクおよび機会の内容と、それが現在・将来の事業に与える影響、さらにはそれらへの対応能力(レジリエンス)を開示します。気候関連については、シナリオ分析の実施と使用したシナリオ・前提条件・時間軸の開示も求められます。気候関連のシナリオを用いて、それぞれの状況が自社の事業・戦略や財務に与える影響を分析・検討し、その過程と結果を開示することで、環境変化に対する自社の中長期的な戦略の強靱性を示すことができます。
気候リスクを単なるリスク一覧として列挙するだけでなく、事業戦略との関係性を論理的に説明できることが評価のポイントです。
※シナリオ分析については下記をご参照ください。
経営戦略に重要なシナリオプランニングとは?メリットや手順を解説
リスク管理
リスク管理では、サステナビリティ関連リスクおよび機会を識別・評価・優先順位付け・モニタリングするプロセスを開示します。リスクを「発見した」という結果だけでなく、「どのような基準でリスクを識別・評価するか」「誰がどのように管理しているか」というプロセスそのものが問われます。
開示対象となる主な要素は、使用するデータの情報源、リスクの発生可能性・影響規模の評価方法、モニタリング体制などです。自社の既存のリスク管理フレームワークとサステナビリティリスクをどのように統合しているかを明確に説明できることが重要であり、リスク管理と事業計画の連動性を示すことが投資家の信頼につながります。
指標及び目標
指標及び目標では、サステナビリティ関連リスクおよび機会に関するパフォーマンスを測定する指標と、定量・定性的な目標、さらに目標に対するパフォーマンスを開示します。どのような指標を使い、どのような目標を設定しているかという「選択の根拠」まで説明することが求められます。
気候関連開示基準においては、スコープ1・スコープ2・スコープ3別のGHG排出量に加え、以下のような産業横断的指標の開示が求められます。
<指標及び目標での開示内容>
-
気候関連の移行リスク
気候関連の物理的リスク
気候関連の機会
資本投下
内部炭素価格
報酬
GHG排出の純量目標を設定している場合はカーボン・クレジットの活用方針など、詳細な開示が必要です。単に数値を並べるのではなく、なぜその指標を選定したのか、どのような根拠で目標を設定したのかを経営戦略と結びつけて説明できるように準備しておきましょう。
SSBJ基準の適用スケジュールと対象企業
SSBJ基準の義務適用は、プライム市場上場企業を対象に時価総額に応じた段階的スケジュールで開始されます。義務化の直接対象でない企業も、間接的な影響を受ける可能性があるため、全体像を把握しておくことが重要です。
プライム市場上場企業への段階適用
SSBJ基準は2026年3月期から任意適用が始まり、2027年3月期以降は時価総額に応じて段階的に義務化されます。なお、SSBJ基準に準拠して開示を行う場合は、適用基準・一般開示基準・気候関連開示基準の3つすべてに準拠することが求められます。先行対応として一部の基準のみを採用することはできないため、任意適用を検討する際にはすべての基準への対応準備が整っているかを事前に確認することが重要です。
ただし、最初の年次報告期間においては、気候関連開示基準の一部を省略できる経過措置が設けられているため、この点も踏まえて準備範囲を検討する必要があります。
プライム市場上場企業以外への間接的影響
SSBJ基準の義務化はプライム市場上場企業が対象ですが、スタンダード・グロース上場企業や非上場企業もその影響を無視することはできません。気候関連開示基準では、プライム市場上場企業にスコープ3のGHG排出量の開示が求められます(適用初年度は省略できる経過措置あり)。スコープ3はサプライチェーン全体の排出量を含むため、これらの企業が取引先の中堅・中小企業や非上場企業に対してGHGデータの提供を求める動きが広がると見込まれるためです。
日本商工会議所・東京商工会議所の2026年度調査では、回答企業の約1割(14.2%)が取引先から脱炭素に関する要請を受けていると回答しています。さらに、要請を受けている企業のうち約4割(42.8%)では、脱炭素への対応が取引の条件になっている、または事実上求められていると回答しており、取引先からの要請が取引継続に関わる要求へと強まりつつあることがうかがえます。SSBJ基準の義務化が本格化するにつれて、こうした動きはさらに広がると見込まれます。
サプライヤーの立場にある中堅・中小企業にとっても、早期のデータ整備や開示体制の構築は、取引継続の観点からも重要な経営課題です。開示義務を負う取引先を持つ企業は、その取引先の対応時期を見据えて準備を進めておくことが求められます。
出典:日本商工会議所・東京商工会議所「2026年度中小企業の脱炭素に関する実態調査」集計結果(2026年7月16日)」
実務での対応のポイント
SSBJ基準への対応は、開示書類を整えるだけでなく、経営戦略・データ管理・第三者保証まで組織横断で取り組む必要があります。ここでは、実務上の重要ポイントを4つに絞って解説します。
<SSBJ基準への対応のポイント>
自社の適用スケジュールと対応優先度の確認
まず行うべきは、自社の時価総額と上場市場を確認し、義務化の開始時期と適用すべき基準の範囲を明確にすることです。ここでいう時価総額は、単年度末の値ではなく、直近5事業年度末の時価総額の平均値で判定される点に注意が必要です。義務化の直接対象でない企業も、主要取引先のプライム市場上場企業がいつから義務化されるかを把握しておく必要があります。
対応の優先度を決定するには、「自社の義務化時期」「主要取引先のSSBJ対応時期」「投資家・金融機関からの開示要請の強度」の3軸で整理するのが効果的です。これを基に、今期から着手すべき事項と中期ロードマップを策定し、対応を計画的に進めましょう。
マテリアリティ(重要性)評価の実施
SSBJ基準では、自社の企業価値に影響を与えるサステナビリティテーマ(財務的な重要性)を特定し、そのリスク・機会を中心に開示することが求められています。開示内容の質は、マテリアリティ評価の精度に直結します。
具体的には、事業戦略・バリューチェーン・主要ステークホルダーへの影響を多面的に検討し、自社にとって財務的影響が大きいテーマを絞り込む作業が必要です。マテリアリティ評価は一度行えば完了するものではなく、事業環境の変化に合わせて定期的に見直すことが求められます。また、評価プロセス自体を開示することは、企業の説明責任を果たすうえでも有効です。
温室効果ガス(GHG)排出量の把握・体制整備
気候関連開示基準への対応において特に工数がかかるのが、スコープ3のGHG排出量の算定です。まずはスコープ1(自社の直接排出)・スコープ2(電力等の間接排出)の把握から着手し、次にスコープ3のうち、自社にとって重要性の高いカテゴリから段階的に整備するアプローチが現実的でしょう。
社内のデータ収集体制については、購買や物流、人事など部門を横断した仕組みの整備が不可欠です。また、取引先からのGHGデータの収集・要請対応の方針も事前に定めておく必要があります。体制整備が遅れるほど、サプライチェーン全体のスコープ3データの精度・網羅性の確保が困難になるため、早期着手が求められます。
第三者保証と開示体制の構築
開示義務化の翌年から、金融商品取引法令に基づき、サステナビリティ情報の第三者保証も段階的に義務付けられます。この保証制度は、SSBJ基準そのものが定めるものではなく、国際基準(ISSA5000等)と整合した保証基準に準拠して実施される制度です。
こうした保証に耐えうる開示とするためにも、データ収集→集計→審査→開示という一連のプロセスを、財務報告と同様の内部統制のもとで管理できる体制の設計が欠かせません。IRや財務部門と連携しながら、サステナビリティ情報の管理プロセスを標準化・文書化することで、保証取得をスムーズに進めることができます。開示体制の整備は、外部からの信頼性向上だけでなく、社内の管理品質の向上にも寄与します。
SSBJ基準を正しく理解し、開示体制の整備を計画的に進めよう
SSBJ基準は、ISSB基準を日本の法制度に適合させたサステナビリティ開示基準です。プライム市場上場企業を対象に、2027年3月期から、時価総額に応じた段階的な義務化が始まります。自社にとって重要なサステナビリティテーマを特定し、経営戦略と連動した開示の設計が必要です。
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