経理財務に求められる経営参謀機能 | 後編:「逆転がし」で実現する、精緻かつ効率的な連結着地見込の算出ロジックとは
前回は、経理財務部門が「経営参謀」として経営の求める業績予測を行うための3つのアプローチを紹介しました。
前編:連結着地シミュレーションを実現する3つの方式
多くの企業において、詳細なデータを積み上げる積上方式は、システムやリソースの制約から困難です。一方、取り組みやすい簡易方式では、経営層が求めるレベルに対応できないというジレンマがあります。
そこで後編では、この課題を解消するための「逆転がしによる多軸展開方式」に焦点を当てます。現場の入力負担を最小限に抑えつつ、製品軸や顧客軸といった対話可能な粒度でのシミュレーションを可能にする、その独自の計算ロジックと実務への適用フローを詳しく解説します。
「逆転がし(分解方式)」とは何か
逆転がし(分解方式)とは、もともと複雑なサプライチェーンを持つ製造業において、グループ全体での一気通貫の実績原価(連結原価)を可視化するために生まれた手法です。この考え方を将来予測に応用したものです。
通常、製品別の連結原価を正確に把握しようとすると、各製造工程における数量データの積み上げが必要となります。しかし、グループ会社間で基幹システムが統一されていなかったり、データの粒度が異なっていたりすると、数量情報を正確かつタイムリーに収集することは困難です。
逆転がしは、数量情報が不足していても、売上金額と原価構成比率さえあれば計算が可能である点が最大の特徴です。
外部への売上情報を起点に、社内取引の商流を遡って、すなわち逆に転がして分解することで、連結ベースでの原価構造や利益構造を明らかにするという手法です。
これにより、データ整備のハードルを下げつつも、精緻な数値算出を実現できるのです。
具体的な計算ロジックの解説
逆転がしの意味を理解していただくために、実際の数値を用いて解説します。
ここでは、加工会社→製造会社→販売会社というグループ内3社間取引を経て、最終的に顧客へ製品を販売するケースを例に考えます。
ステップ1:各社の原価構成比率の算出
まず直近の実績をもとに、グループ各社の構成比率を算出します。
●販売会社:売上2,000万円に対し、グループ内仕入が1,800万円(90%)、利益が200万円(10%)
●製造会社:売上1,800万円に対し、材料費700万円(38.9%)、加工費500万円(27.8%)、利益600万円(33.3%)
●加工会社:売上1,100万円に対し、Z111の材料費400万円(36.4%)、Z900の材料費350万円(31.8%)、加工費200万円(18.2%)、利益150万円(13.6%)
このように個社ごとのPL構造を比率化するのが第一歩です。
ステップ2:商流を遡った展開(逆転がし)
次に外部への売上高2,000万円を起点に、ステップ1で算出した比率を順次掛け合わせて、商流を遡るように分解していきます。
1.販売会社の分解:2,000万円 × 90% = 1,800万円(製造会社からの仕入分)
2.製造会社の分解:上記1,800万円に対し、製造会社の構成比率を適用
○材料費|1,800万円 × 38.9% = 700万円
○加工費|1,800万円 × 27.8% = 500万円
○利益 |1,800万円 × 33.3% = 600万円
3.加工会社の分解:さらに商流を遡り、製造会社の材料費の一部が加工会社から仕入れたものであれば、そこに加工会社の比率を適用して分解
ステップ3:連結ベースの品目別PLの生成
このように商流を遡って計算した結果を再集計すると、販売会社が売った2,000万円の製品(B100)が、グループ全体で見ると以下のような構成になっていることが分かります。
●連結売上高|2,000万円
●連結原価 |1,104万円(材料費477万円、加工費627万円…)
●連結利益 | 896万円(3社の利益の合算)
これにより、現場から詳細な数量データを収集しなくとも、金額ベースで製品ごとの精緻な連結PL構造を把握することが可能になります。
業績見込・将来予測への適用フロー
逆転がしのロジックを、実績把握だけでなく将来予測に応用することで、強力なシミュレーションが可能になります。具体的な業務フローは以下の通りです。
STEP 1:過去実績からの比率算出(ベース作り)
直近の実績データを取り込み、シミュレーションの基準となる原価構成比率を自動算出します。
STEP 2:比率の補正とベース計画の作成
算出した比率に対し、将来の変動要因を加味します。
「来期は原材料費が5%上がる見込み」「生産効率化で加工費率が下がる」といった情報をもとに、構成比率をパラメータとして、調整します。
その後、外販の売上計画のみを入力します。これに調整後の比率を掛け合わせることで、グループ全体の品目別・事業別PL(ベース計画)が自動展開されます。
STEP 3:シナリオ分析(シミュレーション)
作成したベース計画をコピーし、複数のシナリオを作成してシミュレーションを行います。「売上が10%落ちたら」「為替が変動したら」「関税の影響が出たら」といったパラメータを変更し、損益へのインパクトをタイムリーに比較、分析します。
まとめ:ハイブリッド型・多軸展開方式の魅力
紹介した「逆転がしによる多軸展開方式」は、精緻な積み上げを行う積上方式と、スピード重視の簡易方式の長所をあわせたクロスオーバー型の手法です。
システム上のデータが統合されていなくても、実績データの比率を活用することで、論理的かつ迅速なシミュレーションが可能になります。
これにより、経理財務部門は「なんとなくの予測」ではなく、「なぜ利益がこうなるのか」というロジックを持って、事業部や経営層と対話できるようになります。
不確実な環境下で経営の舵取りを行うためには、こうした柔軟かつ論理的な予測モデルを持つことが、経理財務部門にとって大きな武器となるはずです。
逆転がし方式によるシミュレーションの詳細や、システムでの実装イメージにご興味のある方は、ぜひ当社までお問い合わせください。
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