投稿日:2026.04.07
投稿日:2026.04.07

NEW

企業価値向上

連載「資本コスト経営と向き合う」

CFOとして求められる役割(2) 戦略を「数値と現場のアクション」に落とし切る力―指標構造の設計と対話

現代の企業経営において、CFO(最高財務責任者)や経営管理部門の役割は、かつてないほどの大きな転換期を迎えています。これからのCFOや経営管理部門が担うべき本来の付加価値とは一体何でしょうか。本シリーズ「CFOとして求められる役割」では、企業価値向上を担う中核として、これからのCFOに求められる役割や思考法について紐解いていきます。

第1回では、これからのCFOおよび経営管理部門に求められる役割が、過去の数値を正確に集計・報告する「守りの番人」から、企業価値向上を牽引する「価値創造の司令塔」へと劇的に変化している点について取り上げました。また、戦略とは単なる事業計画の羅列ではなく、「投資家向けの価値創造ストーリー」であるという視点を提示しました。しかし、経営陣がどれほど雄大で魅力的な価値創造ストーリーを描いたとしても、それが現場の具体的なアクションに結びつかなければ絵に描いた餅に終わってしまいます。
今回は、抽象的な経営戦略を現場で実行可能なレベルのアクションへといかに翻訳し、組織を動かしていくのか、その考え方とアプローチを掘り下げます。

※シリーズ「CFOとして求められる役割」の第1回については下記をご参照ください。
CFOとして求められる役割(1) CFOの役割は「守り」から「価値創造の司令塔」へ

抽象と具体をつなぐ「因果構造の設計」

経営層が語る「企業価値の向上」「ROE(自己資本利益率)の改善」「PBR(株価純資産倍率)1倍超」といった言葉は、資本市場においては共通言語ですが、事業部の現場社員にとっては抽象度が高く、「今日、自分が具体的に何をすべきか」に直結しません。現場の担当者が自らの業務と企業価値のつながりを実感できなければ、戦略は実行に移されないのです。

ここでCFO組織に求められるのが、戦略の「翻訳」という機能です。最終的な財務指標と、現場の日々の活動をつなぐ論理的な因果構造を設計することが重要になります。
その有効な手段の一つが「PBRツリー(またはROEツリー)」などを活用した指標の分解です。
ROIC(投下資本利益率)やROEといった全社的な財務指標を起点とし、売上高利益率や投下資本回転率といった要素へ分解し、さらに事業部ごとの「顧客獲得単価(CPA)」「顧客生涯価値(LTV)」「設備稼働率」「従業員エンゲージメント」といった非財務指標やKPI(重要業績評価指標)へと細分化していきます。

現場がコントロール可能な「ものさし」を作る

ただし、ここで注意すべきは、「指標を細かくブレイクダウンすれば完成」ではないということです。真に価値を生む経営管理とは、事業の現実を正確にモデル化し、現場の行動変容を促すことにあります。

分解されたKPIは、現場にとって「自らの努力でコントロール可能な先行指標」でなければなりません。例えば、「売上高を10%伸ばす」という目標に対し、現場に「とにかく売上を上げろ」と号令をかけるのは管理ではありません。売上を構成する要素を分析し、「新規顧客の商談数を〇件増やす」「既存顧客の解約率を〇%以下に抑える」といった、具体的なアクションに直結する「ものさし」を設計することにこそ、CFO組織の付加価値があります。
この「ものさし」作りは、単なるツールの導入や帳票の作成ではありません。現場の業務プロセスを深く理解し、何が価値を生み出すドライバー(バリュードライバー)なのかを特定するための、緻密な事業理解とモデリングの力が問われるのです。

KPIは「監視の道具」ではなく「対話の共通言語」

指標構造が設計された後、最も重要になるのがその運用プロセスです。
KPIや指標は、経営陣が現場を監視・管理するための道具に陥りがちですが、本来の役割はそうではありません。指標は、経営と現場が同じ言語で事業の現実を捉え、選択肢を比較し、次の一手を議論するための「対話の共通言語」です。
「計画に対して実績が未達である」という事実があったとき、単に「なぜ達成できないのか」と詰問するのではなく、「設計した因果構造(モデル)のどの部分にボトルネックが発生しているのか」「市場環境の変化により、バリュードライバーの前提が変わったのではないか」という建設的な議論を行うことが不可欠です。

価値創造の源泉は、精緻な計画の数値そのものにあるのではなく、計画を立て、現状とのギャップを分析し、最適な意思決定を導き出す「プロセスそのもの」にあります。これからのCFO組織が担うべきは、単なるデータの集計作業ではなく、こうした「企業価値につながる判断の仕組み」を設計し、組織内に制度として組み込んでいくことなのです。戦略を現場のアクションに落とし込み、対話を通じて実行を支援する。これが、価値創造の司令塔としての重要なステップです。

次回(第3回)は、こうして実行に移された戦略に対し、不確実性の高い事業環境の中でどのように軌道修正を図り、成長のための資本配分(キャピタルアロケーション)を行っていくべきか、「攻め」と「守り」のバランス感覚について掘り下げていきます。

本稿の執筆者

諸井 伸吾
コンサルティングファーム、ファンド、事業会社での経営企画や事業本部長、COOを経験し、2022年4月より企業経営に役立つ情報システムを探求し続けてきたアバントグループに参画。
現在はアバントグループCSO/IR室長、アバントCFO/取締役、VISTA取締役として戦略実現に取り組む。

関連記事

メールマガジン

最新セミナーやダウンロード資料は、メルマガでお知らせしています