CFOとして求められる役割 ~CFOの役割は「守り」から「価値創造の司令塔」へ~
現代の企業経営において、CFO(最高財務責任者)や経営管理部門の役割はかつてないほどの大きな転換期を迎えています。これからのCFOや経営管理部門が担うべき本来の付加価値とは一体何でしょうか。
それは単に「数字をまとめること」でも「予算を管理すること」でもありません。経営トップが描く野心的なビジョンを、資本市場や現場が納得する「戦略」へと昇華させ、資源配分を最適化し、企業価値を最大化する一連のプロセスを牽引することにあります。
この役割の変化は、企業にとって非常にポジティブであり、経営管理部門が企業の未来を直接的に創り出すエキサイティングな時代が到来していると言えます。
本稿より、企業価値向上を担う中核としてのCFOに求められる役割や思考法について、複数回にわたり紐解いていきます。第一回では、CFOの役割の現在地と、目指すべき「価値創造の司令塔」としての全体像について考えてみたいと思います。
※連載コラム『資本コスト経営と向き合う』の前回の記事については、下記をご参照ください。
ROICは「計算」から「行動」へ。現場との対話で見えてきたROIC経営の成熟度モデルと、もう一つの選択肢
攻めと守りを同時に背負うCFOの新しいミッション
昨今のCFOが直面している実態を客観的に見てみましょう。
PwCが実施した最新の「CFO意識調査※」の結果を見ても、多くのCFOが自身の役割として最重要視しているのは「価値創造」でした。自らのミッションは過去の数字の集計ではなく、未来の企業価値を高めることであると、すでに広く明確に認識されています。
その一方で、現実の業務に目を向けると、「統制・コンプライアンス」や「トランザクション処理(日々の経理財務処理)」といった、いわゆる「守り」の業務が依然として多く存在します。企業規模が拡大し、グローバル化や多様性が進む中で、強固な基盤としての守りを疎かにすることはできません。
もっとも、これらは決してネガティブな足かせではありません。現代のCFOは、企業の屋台骨を支える「強固な守り」を維持しながら、同時に未踏の領域へ投資を行う「大胆な攻め(価値創造)」の司令塔になるという、非常にやりがいのあるミッションを背負っているのです。
思考のOSをアップデートし、自らの「ものさし」を創る
このミッションを楽しむためのヒントとして、徳成旨亮氏の著書『CFO思考』の中で提唱されている「金庫番思考からCFO思考への転換」という考え方が非常に示唆に富んでいます。同書によれば、与えられた会計ルールに従ってミスのない処理を行い、期限内に過去の財務諸表を作り上げることを主眼とするアプローチは「金庫番思考」と呼ばれます。これは経理(財務会計)として極めて重要な役割ですが、これだけでは企業の質的変化や価値向上には直結しません。
対して「CFO思考」は、自社の経営戦略や独自のカルチャーに合わせて、「管理会計」という自前の“ものさし”を自ら創り出し、あるいは改変していくアプローチだとされています。集計した分析結果をただ報告するのではなく、企業価値向上に向けた経営資源(ヒト・モノ・カネ)の配分などの具体的なアクションへと直接的に活かしていく。このような経営戦略に即した野心的な指標を設定するための社内での議論やプロセスそのものにこそ、組織を強くする真の価値があると思います。
これこそが、能動的な価値創造の司令塔へと脱却する鍵となります。
戦略とは「価値創造のストーリー」である
では、この視点をもって、経営において具体的に何をすべきなのでしょうか。
CEO(最高経営責任者)が「目指す場所(Destination)」を直感や熱量を持って描く存在だとすれば、CFOは「そこにどう登るか(How to climb)」という野心的な目標への道筋を論理的に設計する存在です。
ここで問われるのが「戦略」に対する解像度です。社内で飛び交う「戦略」という言葉が、単なるスローガンや実態のないふわふわしたものになっていないでしょうか。
真の戦略とは「投資家向けの企業価値向上の目標ストーリー」であり、資源配分の選択を伴う具体的な道筋なのです。
多くの組織が抱える課題は、経営層がいる「抽象の世界(スローガンやビジョン)」と、現場がいる「具体の世界(日々のオペレーションや実務)」が分離してしまっていることにあります。経営と現場の認識ギャップを埋めることは、変化の激しい時代において必須の取り組みです。この両者を行き来し、橋渡しをするのがCFOの極めて重要な役割です。
CFOは経営の抽象的なビジョンを、自ら創り出した“ものさし”を使って具体的なリソース配分やアクションの道筋に落とし込みます。そして同時に、現場の泥臭い具体的なアクションの積み重ねが、いかにして企業価値の向上に繋がるのかという「価値創造のストーリー」を紡ぎ、資本市場(投資家)に語るストーリーテラーとならなければならないのです。
「守り」の基盤を磐石にしながら、自らものさしを創って「攻め」のストーリーを描き、抽象と具体を行き来する。これがこれからのCFOに求められる最初の条件です。
では、この美しく描かれた「戦略(ストーリー)」を、現場の日常業務や具体的な数値目標にどう翻訳し、実行に落とし込んでいけばよいのでしょうか。
次回は、戦略を「数値と現場のアクション」に落としきるための具体的なメカニズムについて深掘りしていきます。
本稿の執筆者
諸井 伸吾
コンサルティングファーム、ファンド、事業会社での経営企画や事業本部長、COOを経験し、2022年4月より企業経営に役立つ情報システムを探求し続けてきたアバントグループに参画。
現在はアバントグループCSO/IR室長、アバントCFO/取締役、VISTA取締役として戦略実現に取り組む。
