投稿日:2026.02.16
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サステナビリティ経営の最新トレンド【第3回】Scope3対応の戦略設計と1次データ活用の実践ステップ

3回シリーズで、サステナビリティ経営の最新トレンドを解説しています。

第2回「Scope3算定の基礎知識と企業が取り組むべき開示戦略」では、Scope1・2・3すべてのGHG排出量を正確に把握・開示することの重要性を確認しました。

最終回となる今回は、実務面での具体的な進め方を解説します。限られたリソースでどこに注力すべきか、GHG排出量の算定に使用する1次データと2次データをどう使い分けるか、そして実際の現場で直面する課題にどう対応するか―これらのポイントを掘り下げます。

GHG排出量算定の基礎となる1次データと2次データ

GHG排出量の算定では、1次データと2次データの使い分けが重要です。それぞれの特徴を正しく理解し、自社のビジネスモデルに合った選択をする必要があります。

1次データ|実測に基づく直接データ

1次データとは、製品システム内で実際に取得されたデータに基づいて算出された値です。サプライヤーから直接提供される製品ごとのCO2排出量データや、自社工場で実測した電力使用量などが該当します。

<1次データのメリット・デメリット>

メリット サプライヤーの削減努力を反映できる
・再生可能エネルギーの導入や製造プロセスの改善など、サプライヤーの取り組みが数値に直接反映される
Scope3排出量削減の進捗が管理できる
・削減活動の成果を定量的に把握でき、PDCAサイクルを効果的に回せる
サプライヤー間での比較が可能
・同じ部品でも、どのサプライヤーがより低排出で製造しているかを客観的に評価できる
デメリット データ入手が困難・高コスト
・特に中小サプライヤーでは、データ収集体制が整っていないケースが多い
データ品質の評価が難しい
・算定方法や前提条件が不明確な場合、信頼性の判断が困難

2次データ|外部データベースや業界平均値

2次データとは、外部データベースや論文、業界平均値など、代わりのデータとして使用される情報です。1次データが入手できない場合の代替手段となります。

<2次データのメリット・デメリット>

メリット 仮に1次データが得られなくても算定可能
・データ収集が困難な領域でも、一定の精度でGHG排出量を把握できる
初期分析に有効
・Scope3排出量の全体像を把握し、重点領域を特定する際に役立つ
デメリット サプライヤーの努力が反映されない
・業界平均値を使用するため、個別企業の取り組みが数値に表れない
削減進捗の管理が困難
・実際の削減活動と数値が連動せず、PDCAサイクルが機能しにくい

すべて1次データで算定できる状態が理想ですが、現実的には2次データも活用しながら、段階的に1次データの比率を高めていくアプローチが有効です。自社のビジネスモデルと収集能力を踏まえた、データ収集のバランスが取れた方針設計が求められます。

1次データ収集の優先順位と現実的な進め方

収集にかかる工数やコストを考えると、1次データのみで算定するのは非現実的です。限られたリソースで最大の効果を得るには、戦略的な優先順位付けが重要です。

国際的なガイドラインであるGHGプロトコル Scope3 Standardでは、1次データ収集の優先順位を以下の3つの基準で決めることを推奨しています。

基準1:削減インパクトの大きさ

自社の削減目標達成に最も貢献する製品・領域から着手します。たとえば、主力製品が売上の70%を占める製造業なら、その製品のサプライチェーンから1次データ収集を始めることで、投資対効果を最大化できます。

基準2:GHG排出量の多いカテゴリ

初期スクリーニングで2次データを用いて全体のScope3排出量を算定し、GHG排出量の多いカテゴリを特定します。カテゴリ1(購入した製品・サービス)が過半を占めるケースでは、このカテゴリの主要品目から1次データ収集を開始することが合理的です。

基準3:データ入手の実現可能性

次に、データ収集の実現性と品質の両面から判断します。環境データ管理システムを導入済みの大手サプライヤーなど、質の高いデータを提供できる取引先から算定を始めると効果的でしょう。協力的で体制の整った企業と連携し、段階的に対象を広げていきます。

初期スクリーニングの実践が重要

実務では、初期スクリーニングによる絞り込みが重要です。まず2次データで全体像を把握し、GHG排出量が全体の1%未満など影響の小さい活動は2次データのまま管理します。そして、重要度の高い領域だけに1次データ収集のリソースを集中させるのが賢明です。

当初から完璧なデータ収集を目指すのではなく、戦略的に対象を絞り込むことで、限られた人員・予算でも着実に成果を上げられるはずです。

業界別の重点カテゴリを知り自社の重点領域を見極める

Scope3の中で注力すべきカテゴリは、業界によって大きく異なります。自社業種の特性を理解し、効果的にリソースを配分することが成功への近道です。アバントでは、業界別の重要カテゴリマッピングを独自に作成しました。

例:
・製造業…原材料調達(カテゴリ1)、物流(カテゴリ4・9)が大きな割合を占める
・BtoC産業…製品使用時(カテゴリ11)、廃棄時(カテゴリ12)の排出も考慮すべき
・金融業…投融資先の排出(カテゴリ15)が重要

このように、業界やビジネスモデルによって重要カテゴリは異なります。これらは産業別の傾向を示した表ですが、自社の事業特性や実務経験も鑑み、重点領域を判断できるようになります。このような流れを踏まえ、効率的な1次データ収集戦略を立てることが大切です。

1次データ収集を成功させるツールと体制づくり

実際には、1次データを収集する過程で様々な課題に直面します。単に自動化を目指すのではなく、継続的に最適化可能な体制構築が不可欠です。

データの収集・統合における課題

必要なデータがERPやその他のシステム、ファイルに点在しており、収集と加工に膨大な手間がかかるという課題があります。例えば、購買データはSAP、製造データは独自システム、物流データはExcelといった具合に管理元がばらばらだと、これらを統合してCFPを算定するのは困難です。

対応策として、複雑なデータ収集から整形、加工までの一連の作業をシステムで自動化することが効果的です。レイアウトやコードを統一し、一元的なデータベースに統合することで、データの整合性と精度を効率的に高められます。

システム導入の時間短縮

多様なシステム連携や処理の実装が必要となり、導入に時間がかかるという課題もあります。すべての要件に対応できる汎用的システムを構築することは現実的ではありません。

個別案件に合わせて処理のカスタマイズをして柔軟に対応できると、初期設計の難易度も下がります。標準機能でカバーできない部分は、段階的に機能追加していくアジャイル型のアプローチが有効です。

方針変更への対応可否

長期的には、データの加工方針や精度要件が変化する可能性が十分に考えられます。ISSBの基準更新や取引先からのより詳細なデータ要求など、外部環境の変化に応じてデータフローの変更が必要になることもあるでしょう。

すなわち環境変化へ柔軟に対応できる設計が必要ですが、自社単独の運用ではデータの崩れや算定ミスにつながりかねません。一方、専門的なシステムを活用すれば、導入から保守運用まで継続的なサポートを受けられるため、制度変更にも迅速かつ確実に対応できます。

まとめ

Scope3対応において、1次データですべてのGHG排出量を算定するのは現実的ではありません。まずは削減インパクトやGHG排出量の多い領域を見極め、優先順位をつけて1次データの収集方針を定めることが重要です。

点在するデータの統合や制度変更への対応といった実務課題には、柔軟なツールと継続的な運用体制の構築が重要です。精度・スピード・柔軟性のすべてを両立させるために、今こそ戦略的な優先順位付けとシステム化による効率的な体制づくりが求められています。

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