投稿日:2026.02.03
投稿日:2026.02.03

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企業価値向上

連載「資本コスト経営と向き合う」

東証「課題解決に向けた企業の取組み事例集」から読み解く、「経営と現場」の新しい関係性 ~「対話」が変える企業価値。現場を巻き込むストーリーテリングの力~

前回は、経営と現場の対話が「形式」から「実質」へと進化する必要性についてお話ししました。
今回は、先日東証から公表された『「資本コストや株価を意識した経営」課題解決に向けた企業の取組み事例集』をもとに、実際にその「実質的な変化」を起こしている企業の具体的なアクションに注目してみたいと思います。
多くの企業が悩む「現場への浸透」や「投資家との対話」において、素晴らしいヒントが詰まった3社の事例をご紹介します。

本稿の執筆者

諸井 伸吾
コンサルティングファーム、ファンド、事業会社での経営企画や事業本部長、COOを経験し、2022年4月より企業経営に役立つ情報システムを探求し続けてきたアバントグループに参画。
現在はアバントグループCSO/IR室長、アバントCFO/取締役、VISTA取締役として戦略実現に取り組む。

1.株式会社イトーキ
あえて厳しいハードルを課し、現場とは「方向性」を共有する

まず注目したいのは、自社の資本コストの設定プロセスです。
同社は、一般的な計算式(CAPM)で算出された7%台という数値に対し、投資家へのヒアリングを経て、あえて9~10%という「厳しめ」の設定を行いました。低いハードルでお茶を濁すのではなく、市場の期待値という現実を直視する姿勢は、経営の本気度を示す何よりのメッセージとなります。

一方で、その厳しさをそのまま現場に押し付けていない点が非常に巧みです。社員への浸透にあたっては、細かな数値目標で縛るのではなく、経営トップがコミットメントを示した上で「大きな方向性や考え方」を共有することに注力しています。
「数字」というドライな情報を、現場が共感できる「ストーリー」に変換して届ける。経営と現場が同じ方向を向くための、丁寧な土壌づくりを感じます。

2.ダイハツインフィニアース株式会社
投資家の「ダメ出し」をエネルギーに変える

次は、投資家からの厳しい声を「変革の燃料」に変えた事例です。
同社は一度公表した中長期ビジョンに対し、投資家から「改善の余地が大きい」という指摘を受けました。ここで素晴らしいのは、その声をネガティブに捉えるのではなく、社内取締役を中心とした新組織(CVIC)を立ち上げ、議論を再開したことです。

外部コンサルタントも交えて「喧々諤々」の議論を行い、わずか1年後にビジョンを大幅にアップデートしました。
一度決めたことを修正するのは勇気がいりますが、外部との対話をきっかけに、自分たちの目指す姿(目標)をよりクリアに磨き上げる。この「素直さ」と「修正力」こそが、変化の激しい時代における組織の強さだと言えます。

3.東亜建設工業株式会社
対話の質的変化を「計画」に反映させる

最後は、投資家の関心の変化を敏感に感じ取り、計画を進化させた事例です。
IR活動を強化する中で、投資家からの質問が「目先の業績や還元」から、「将来の成長ドライバー」や「キャッシュの使途」へと変化していることに気づきました。

同社はこの変化を「投資家が中長期の成長を期待し始めたサイン」と捉え、既存のアクションプランを見直す決断をします。そして、人的資本投資やクリアなキャッシュアロケーション方針を盛り込んだアップデート版を公表しました。
「計画を作って終わり」ではなく、対話を通じて得られた気づきを経営にフィードバックし、計画そのものを生きたものとして運用していく。まさに「対話ドリブン」な経営の実践例です。

まとめ

今回取り上げた3社に共通しているのは、投資家という「外部の視点」を、経営陣だけでなく現場や社内議論にうまく取り込んでいる点です。
「資本コストや株価」というと、どうしても財務的なテクニックの話になりがちですが、好事例とされる企業ほど、それを「社内外とのコミュニケーションツール」として活用しています。外部の厳しい目線を経営の規律にしつつ、現場には納得感のあるストーリーで語りかける。こうした「翻訳」と「対話」ができる企業こそが、持続的な価値を生み出していくのだと思います。

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