投稿日:2026.01.16
投稿日:2026.01.16

NEW

企業価値向上

連載「資本コスト経営と向き合う」

経団連提言から読み解く、2026年の「経営と現場」の新しい関係性 ~「形式」から「実質」へ。対話を深めるためのヒント~

はじめまして。アバントグループCSO、アバントCFOを務めている諸井 伸吾(もろい しんご)と申します。
この度、 企業価値向上に向けた課題や実践知を共有する連載コラム「資本コスト経営と向き合う」をスタートさせていただきます。

タイトルには、単なる理論の解説にとどまらず、ビジネスの最前線で皆様が直面しているリアリティのある課題に正面から向き合いたい、という想いを込めました。今後は私自身の発信に加え、アカデミアの先生方や、先進的な取り組みをされている企業の方々との対談も交えながら、多角的な視点で「資本コスト経営」の在り方を探求してまいります。

最初に、私たちが目指す方向性を共有させてください。
本連載コラムタイトルでいう「資本コスト経営」とは、特定の指標を計算することそのものではなく、事業や投資の意思決定を行う際に、資本コスト(投資家が期待するリターン)を意識して考え続ける姿勢を指しています。
第1回となる今回は、昨年末(2025年12月16日)に経団連から公表された「持続的な成長に向けたコーポレートガバナンスのあり方」を取り上げたいと思います。
すでに目を通された方も多いかと思いますが、東証からの要請から数年が経過し、各社の取り組みが一巡した今のタイミングにおいて、実務に携わる皆様の背中を押してくれる内容だと感じました。

本稿では、この提言の全体感から私が特に「これは良い変化の兆しだ」「実務の追い風になる」と感じたポイントを抽出し、それをどのように日々の業務に落とし込んでいくべきか、2026年の経営アジェンダとして皆様と共有したいと思います。

本稿の執筆者

諸井 伸吾
コンサルティングファーム、ファンド、事業会社での経営企画や事業本部長、COOを経験し、2022年4月より企業経営に役立つ情報システムを探求し続けてきたアバントグループに参画。
現在はアバントグループCSO/IR室長、アバントCFO/取締役、VISTA取締役として戦略実現に取り組む。

「ガバナンス改革の実質化」という前向きなメッセージ
形式整備の段階を終え、仕組みを使ってどう成長を実現するかの「攻め」のフェーズへ

まず、私が最も勇気づけられたのは、提言全体を通じて強調されている「実質化」への視点です。
これまでのガバナンス改革の文脈では、社外取締役の人数比率や委員会の設置といった「形式の整備」が先行しがちでした。しかし、今回の提言では、形式が整ったことを前提に、「持続的な成長に向けたガバナンス」へどう進化させるかという点に焦点が当たっています。

特に、取締役会の機能について、モニタリング(監督)だけでなく、中長期的な企業価値向上に向けた戦略議論を重視する姿勢が見て取れます。この考え方を実務レベルで捉え直すと、皆様が日々作成されている経営管理資料の役割も変わってくるはずです。
これらは単なる管理のための資料ではなく、経営陣が将来に向けた決断をするための「羅針盤」として機能することが期待されていると言えるでしょう。

皆様の緻密なデータ分析やシミュレーション業務が、これまで以上に経営のど真ん中で価値を発揮する土壌が整ってきた、というポジティブな変化を感じずにはいられません。

取締役会での議論の深化
指標の報告にとどまらず、それを基点に対話を深めるための「共通の視点」づくりが重要に

次に注目したいのは、取締役会の実効性評価や運営に関する視点です。 提言では、取締役会が経営戦略や経営計画の策定・実行において、より実質的な役割を果たすことの重要性が示唆されています。

これを資本コスト経営の文脈で読み解くと、単に数値を報告するだけではなく、「その数値の背景にある戦略やリスクをどう議論するか」が問われていると言えます。
WACC(加重平均資本コスト)やROICといった指標は、ともすれば一部の専門用語になりがちですが、これらを取締役会で共有し、議論を深めるための共通の視点として活用していく土壌が整いつつあるのではないでしょうか。

経営会議において「なぜこの事業を続けるのか」「なぜこの投資が必要なのか」という問いがなされた際、これまで定性的な説明や過去の経緯に依存しがちだった部分に、皆様が提供する「数値」や「ロジック」が共通の物差しとして機能するようになります。これにより、現場と経営陣との間で、より深い対話をするための糸口がつかみやすくなったと言えるのではないでしょうか。

「対話」の中身が、PBR対策から「成長ストーリー」へ
テクニカルな株価対策を超えて、価値創出のプロセスと意思を語ることが評価される時代へ

最後に、投資家との「対話」についての記述です。
提言では、株主・投資家との建設的な対話を通じて、中長期的な企業価値向上を図ることの重要性が改めて確認されています。

数年前、PBR(株価純資産倍率)1倍割れの是正に向けた動きが始まった当初は、自社株買いや増配といった短期的な施策に注目が集まることもありました。しかし、今回の提言の文脈を踏まえると、そうしたテクニカルな対応だけでなく、「持続的な成長ストーリー」を自らの言葉で語ることが、より一層求められるフェーズに入ったと感じます。
これは、実務においては単に今の数値を良く見せるのではなく、「自社はどのような考え方で、どのような時間軸で価値を創出するのか」というプロセスを共有することこそが、評価される時代に入ったことを意味します。

人的資本経営の開示においても、結果としての数字だけでなく、そこに至るまでの考え方が評価される傾向にありますが、資本コスト経営においても同様です。「現状の課題をどう認識し、どう向き合っていくか」という誠実な開示こそが、信頼につながるのだと思います。

結び:2026年、皆様の挑戦を支える伴走者として

2026年は、金利環境の変化や市場区分の見直しなど、外部環境も引き続き動いていくことが予想されます。そのような中で公表された今回の経団連提言は、皆様がこれまで積み上げてきた「資本コスト」や「ガバナンス」への地道な取り組みが、時代の要請と重なっていることを改めて確認させてくれるものだと感じています。

私たちアバントも、皆様が社内でこうした「実質的な議論」を推進される際に、データの整理やプラットフォームの提供を通じて、その負荷を少しでも減らし、より本質的な思考の時間を増やすお手伝いができればと考えております。

「形式」から「実質」へ。そして「管理」から「価値創造」へ。
この大きな変化の波を、皆様と共に楽しみながら乗りこなしていければと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。

関連記事

メールマガジン

最新セミナーやダウンロード資料は、メルマガでお知らせしています