投稿日:2025.09.25
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グループ経営管理

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セミナーダイジェスト

なぜグローバル経営管理プロセスは浸透しないのか? 【前編】海外拠点の経営管理の現状と課題

グローバル経営管理における課題と解決方法を全3回シリーズで解説しています。

日系企業のマーケットが海外中心型へ移行するなか、海外拠点を含めたグループ経営管理の必要性がますます高まっています。
これまでの海外拠点の経営管理は、PL/BSの連結による予実管理のみにとどまり、本社とは分断されているケースがよく見られてきました。その背景には、さまざまな要因により本社の経営管理とプロセスを標準化するのが難しいという海外ならではの実情がありました。

前編では、グローバル化が進む日系企業における、海外拠点の経営管理の現状と本質的な課題について整理していきます。

マーケットの海外シフトと予実管理の限界

経済産業省のデータ(※)でも示されている通り、グローバル市場において日本企業の海外売上比率は高まっているものの、正しく利益にはつながっていないケースが多く見られます。この状況は、グローバル展開によってマーケットの獲得、拡大には成功しているものの、収益性の向上にはつなげられていないことを示しています。
※出典:経済産業省「グローバル競争時代に求められるコーポレート・トランスフォーメーション(グローバル競争力強化に向けたCX研究会 報告書)」(2024年6月3日)

これまで海外拠点の経営管理は、制度会計と類似の情報を収集し、会社別のPL/BSによる予実管理にとどまるケースが一般的でした。こうした手法では、グループ全体の経営資源の最適配分や各拠点の実態把握が難しく、精度の高い意思決定にはつながりません。

近年、国や株主からも『稼ぐ力』の強化が求められるようになり、グローバルな競争力の向上は避けられない課題となっています。特にPBR(株価純資産倍率)改善に向けた取り組みが重要視され、ROIC経営への移行や経営管理におけるPMI(Post Merger Integration)といった取り組みに注目が集まっています。

グローバルでの競争力強化には、製品・サービスを磨くだけでなく、リソースの可視化と資本最適化などによるコーポレートファイナンスの強化が必要不可欠です。分断されてきた海外拠点の事業管理プロセスを標準化し、連結前に積み上げたデータをもとに経営サイクルを回すことで、より正確な意思決定が可能になります。

現状のグローバル経営管理プロセスの課題

海外市場で優位に立つために海外拠点も含めたグループ経営管理は重要ですが、そこにはいくつもの課題があります。以下では課題について、異なる2つの側面から解説します。

ハード面の課題:データ統合

現状のグローバル経営管理では、データ統合に関する技術的な課題が多く存在します。まず、拠点ごとに作成プロセスやデータの意味合い、粒度がバラバラで、データが穴あきになっていたり、同じコードに紐づくデータでも意味合いが違うため横串で確認した際、正しく内容把握ができないなど、さまざまな問題が発生します。

ある拠点では物流費を売上原価に含めて計算しているのに対し、別の拠点では含めていないといった違いにより、収益構造の比較分析が困難になるケースが少なくありません。
また個別最適なシステム構成により、データの整合性が取れないケースも多く見られます。データソースをさまざまな場所から収集しなければならず、Excelマクロなど独自のツールも多数存在するため、非効率な状況に陥りがちです。
さらに本社へ報告する際の煩雑なデータ加工作業も大きな負担となっています。情報粒度、情報のソースが統一されていないため、本社からのさまざまな切り口での情報提供依頼に対応する作業負荷が大きくなります。

こうしたデータ統合の課題は、グループ経営管理システムを構築する際、早期にぶつかりやすい壁ですが、乗り越えるためには相応の時間と労力が必要です。

▼ハード面の課題については、シリーズ中編でより詳細な点を解説しています。あわせてご覧ください。
なぜグローバル経営管理プロセスは浸透しないのか? 【中編】効率的なデータ基盤の統合方法を解説(※公開をお待ち下さい)

ソフト面の課題:プロセス統合

技術的な課題と同様に重要なのが、プロセス統合における人的・文化的な隔たりです。

国や言語圏ごとにビジネスへの考え方が異なることは、最初に直面する大きな壁となります。同じ内容を説明しても理解度や解釈に差が生じやすく、ミスコミュニケーションが発生する原因となります。
例えば、日本本社が『できるだけ早く』と伝えた指示が、ある海外拠点では『翌日まで』と解釈される一方、別の拠点では『1週間以内』と受け止められるなど、認識の齟齬が生じることがあります。これは国際的なビジネスの現場で頻繁に見られる典型的な課題です。
買収などによって生まれる企業文化の違いも大きな障壁となる場面は少なくありません。日系企業がM&Aによって組織拡大を進めた結果、買収元と譲渡側の企業文化の違いによって、データの粒度や集め方にも差異が生じやすくなります。

業務領域ごとに組織体制(グローバル組織体の有無など)が異なることも多く、統一的なプロセスを展開するうえではこうした体制そのものがハードルとなる場合もあるのです。

これらソフト面の課題は、ハード面の課題と比べると可視化されにくく、解決にも時間がかかる傾向にありますが、グローバル経営管理プロセスを真に浸透させるためには避けて通れない問題です。

▼ソフト面の課題については、シリーズの後編で詳しく述べています。以下よりご覧ください。
なぜグローバル経営管理プロセスは浸透しないのか? 【後編】組織・文化の壁を越える展開戦略とは(※公開をお待ち下さい)

今後求められるグローバル経営管理体制とは

ハード・ソフト両面の課題を踏まえて、グローバル企業はどんな経営管理体制をとるべきでしょうか。以下、意識すべきポイントと具体的なプロセスについてお伝えします。

ROICやPBRを意識した経営への転換

これからのグローバル経営では、営業利益率の改善に向けた意識改革が必要です。単純に売上高や市場シェアを追求するだけでなく、ROIC(投下資本利益率)やPBR(株価純資産倍率)といった資本効率を重視した経営へと転換していくことが求められています。

また、単なる制度会計・予実管理だけでなく、経営管理におけるPMIへのシフトも重要です。各地域に任せてきた経営、個別最適で進めてきた経営を、本社がしっかりと手綱を握る形に転換することが重要です。

グローバル・ワンカンパニーを目指すための4ステップ

グローバル・ワンカンパニーを実現するためには、以下の4つのプロセスを踏んでいく必要があります。

【1】実績データの可視化

まず、実績を連結ベースで正確に把握します。製品別および顧客企業別に売上と利益を可視化できるようにし、最小管理単位として品目単位および原価の内訳を見えるようにします。多軸の観点からデータを整理するため、集計軸の粒度を揃えることが必要です。

【2】実績データの計画への活用

次に実績の可視化により得られたデータを基礎として、計画や予算策定の質を高めます。各部門単位での計画・予算を明確にし、部門間の計画作成プロセスの前後関係を整理します。

【3】計画業務のシステム化

ここまでで強化された計画業務を前提に、システム化を行い業務の効率化と計画精度の向上を進めます。本社がグループ各社の計画業務を一定コントロールできるようになることで、全社的な戦略構築・計画策定が可能となるでしょう。

【4】将来シミュレーションの実現と企業価値経営への活用

将来シミュレーションを実施することで、経営陣の意思を反映した見込み数値をタイムリーに把握できるようになります。企業価値経営への活用へ結びつき、事業別BS/ROIC管理の向上を踏まえた事業ポートフォリオ管理への適用が実現します。

これら4つのステップを実行するには、従来のPL/BS中心の予実管理以上に、あらゆるデータの収集および可視化が欠かせません。ERPのほか、SCM・CRMなどの基幹システムなど、データソースも拡大するため、データの粒度を拠点ごとに揃えることがグローバル経営管理の成功の鍵となります。

まとめ

今や海外拠点の経営管理は、単なる連結決算の枠を超え、経営判断の質に直結する戦略課題です。グローバル・ワンカンパニー体制を目指し、経営データを可視化・標準化していくことが、真の成長をもたらす道筋といえるでしょう。

次回は、その全体最適を進める上で最初にぶつかる「ハード面の壁」、すなわちデータとシステムの統合課題にどのように向き合うべきかを具体的に掘り下げます。

シリーズのご紹介

なぜグローバル経営管理プロセスは浸透しないのか? 【前編】海外拠点の経営管理の現状と課題
なぜグローバル経営管理プロセスは浸透しないのか? 【中編】効率的なデータ基盤の統合方法を解説 (※公開をお待ち下さい)
なぜグローバル経営管理プロセスは浸透しないのか? 【後編】組織・文化の壁を越える展開戦略とは (※公開をお待ち下さい)

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