投稿日:2025.09.02
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ROIC経営・グループ管理会計

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インタビュー

【対談:ROIC経営を支える組織づくり – CFO機能とFP&Aの実践的課題と解決策】 第2回:組織・人事・システム…実務上の壁の存在と乗り越え方

ROIC経営の実践的な課題と解決策について、専門家同士の対談を3回シリーズでお届けしています。第1回では、ROIC導入の本質的な目的と、表面的な取り組みに陥らないための注意点についてお聞きしました。

【対談】ROIC経営を支える組織づくり – CFO機能とFP&Aの実践的課題と解決策
第1回:ROIC経営の本質は企業価値の向上
第2回:組織・人事・システム…実務上の壁の存在と乗り越え方
第3回:成功への道筋 – 投資管理とシステム基盤の重要性

今回は、実務レベルでROIC経営を阻む具体的な壁に焦点を当てます。事業別ROICの算出過程で直面する配賦の問題、指標を設定しても現場で機能しない権限・責任・評価のギャップ、日本企業特有の縦割り組織の弊害など、根本原因と解決の方向性を探ります。

CFO組織に求められる変革として、従来の経理部門の枠を超えたFP&A機能の重要性、グローバル組織でのマトリックス管理の実現、生成AIの進歩が組織課題の解決にもたらす可能性など、話題は多岐に及びました。指標の導入だけでは変わらない組織・人事・システムの現実をどう変革するか、櫻田 修一氏(株式会社アカウンティング アドバイザリー マネージングディレクター/公認会計士)に株式会社アバント執行役員の岩佐 泰次がお聞きします。

ROICの算出に立ちはだかる「配賦」の壁

櫻田 修一氏
外資系大手監査部門での監査業務を経て、ビジネスコンサルティング部門に転籍。業績管理・連結管理、会計分野を中心とした、経営管理・業務改革コンサルティングおよびERP等のシステム導入コンサルティングを手がける。2010年に創業メンバーとしてアカウンティング アドバイザリーを設立。IFRS導入、過年度財務諸表遡及修正業務等のサービスラインを確立、現在はEPM(業績管理)・連結会計システム・ERPなどのシステム導入を含む会計関連プロジェクト実行支援サービスを提供している。

岩佐 多くの企業が、実務で最初に直面するのは事業別ROICの算出です。実際に多くの企業から「配賦まみれとなった説得力に乏しい数字しか出せない」という悩みを聞きます。

櫻田 これは日本の管理会計の典型的な“悪癖”と言ってよいでしょう。目的が不在のままで、精度だけを追求しても無駄だと言わざるを得ません。経営企画や経理部門の担当者が、一生懸命仕事に取り組んだという姿勢を見せるために精緻な配賦を追求するだけでは、手段と目的をはき違えた意味のない管理会計になってしまいます。

岩佐 日本企業は全般的に配賦の精緻性にこだわりすぎる傾向があるように思いますね。

櫻田 ただ精緻さを追い求めるのではなく、重要性を議論すべきです。連結売上高が5,000億円の企業で20のサブセグメントがあると仮定すると、平均は250億円のサイズになります。ここで資本効率性を考えれば、1千万円から数千万円の配賦精度で十分なんです。
それ以上細かいレベルにこだわるくらいなら、本来のポートフォリオ戦略の中身を考えたり、将来の配賦をなくす基幹システムの構想をやったりしたほうがメリットは大きいはずです。

人事評価制度に見える権限と責任のギャップ

岩佐 一方で現場にも壁は存在します。わざわざ指標を展開しても、事業部サイドが十分に活用できないケースも散見されます。

櫻田 原因は、権限を開放せず、責任を明確化していないという制度上の欠陥にあります。特定の事業の意思決定にかかわる責任者の評価は、もっと業績によって左右されて然るべきです。

岩佐 多くの組織では、管理会計と人事評価はまったく別物として扱われているように思われます。

岩佐 泰次氏
監査法人を経て、株式会社ディーバ(現、株式会社アバント)に入社。経営管理領域を軸にコンサルティングやシステム導入を多数実施。その後、事業開発・製品開発などを経て、現在はお客様の「見えない企業価値を可視化し最大化する」ことをミッションとするグループ経営管理事業を推進中。公認会計士。

櫻田 それが問題なのではないでしょうか。管理会計と組織の一定以上の責任を持つ方の人事評価は切り離すべきではありません。
数字を改善しよう、達成しようという当事者意識を生むには権限と責任が必要です。
部門別損益に対して、当該部門長に一定の責任があり、さらに見返りがなければ機能しません。日本CFO協会のFP&Aプロジェクトで紹介されている「FP&Aベストプラクティス12の原則」では優れた業績を上げている企業の経営者は業績の結果責任を従業員の報奨金に結び付ける能力が高い、としています。

かつて、あるエンターテインメント企業でプロダクトと売上の相関だけでなく、そこに関わった従業員を紐づけるシステムの構築に携わった経験があります。このシステムではプロダクトごとの評価はもちろん、プロダクト責任者別の利益算出も可能で、インセンティブ設計や人事評価とも完全に連動していました。

岩佐 事業の成果と人事評価が密接に紐づいた制度を設計したのですね。

櫻田 そうです。指標ツリーを展開しただけでは真の実効性は得られません。人事評価に踏み込むことが、大切だと思います。

*IMA(Institute of Management AccountantsとBoard Internationalによるサーベイのサマリー:
欧米でのサーベイであるが、終始雇用が前提でなくなりつつある今の日本企業においても示唆を与えるもの。その原則7と8で業績と報酬の連動に言及している。

時間軸やグローバル管理に立ちはだかる慣習

岩佐 全般的に、経営陣はもっと中長期の視点をもつべきという指摘もあります。

櫻田 これは、たった2年という取締役の任期の短さも問題です。「知の探索と深耕」でお馴染みとなった早稲田大学大学院の入山章栄教授は「社長の任期は10年でも短すぎる」とさえ指摘していますが、多くの企業が本当に5〜10年後を見据えて経営しているのかは疑問ですね。

岩佐 中期経営計画が3年単位だと、なんとか任期を乗り切るという発想になってしまうのも無理はありません。

櫻田 現状では、資産維持の保守的な考え方になるのも仕方ないですよね。結果が変わる前にもう任期が終わってしまうのですから。
また異なる側面ですが、多くの企業にとっては、海外事業の管理もまた、悩みのタネであることが多いですが、言語の壁は生成AI技術の高度化によって、劇的に改善されつつありますね。

岩佐 技術の進歩はとどまるところを知りません。これが組織課題の解決にも寄与する時代になってきました。

櫻田 言語の壁がなくなれば、広範囲な事業領域、また複数の国と地域にまたがっているにもかかわらず「海外事業」と一括りにされてきたマトリックス管理の問題も解消に向かうかもしれません。

岩佐 しかし、商習慣の違いは、まだ壁として立ちはだかっています。

櫻田 JTは、かつてオランダに欧米統括会社を作ったことがあります。言語による意思疎通の問題とともに商習慣の隔たりが大きく、日本本社直轄での管理は適切でないと判断したためです。しかし今なら、この判断は変わるかもしれません。それぐらいのインパクトが、今のAIの活用によって起こりつつあるのではないでしょうか。

サイロ化した組織のカギを握るCFOやFP&A

岩佐 櫻田さんは、CFOの重要性についても以前から指摘されてきました。CFO組織の理想的な姿とは、どのようにお考えですか。

櫻田 日本企業特有の縦割り組織の課題がありますが、財務・会計機能についてはCFO組織として統合するべきです。グローバルな財務会計領域で人材も配置できるようになるのが望ましいですね。

岩佐 先ほど言及されていた FP&Aへの注目も高まっていますね。

櫻田  Financial Planning & Analysisという名前の通り、事業部門をサポートする経理財務人材は、大企業の多くでは事業部に所属しています。それらもCFO組織の配下にすべきだと考えます。結果として人材育成の観点からも非常に有効だからです。

岩佐 アメリカではCFOの管轄下にCIOが置かれるケースもあると聞きます。

櫻田 これは全データが最終的に財務会計に集約されているためだとみています。CEOとCFOで経営する二大体制は、今後ますます浸透していくと思われます。CFOの管轄範囲を増やす方向性です。

まとめ-実務上の壁を乗り越えるには

岩佐 実務上の課題を乗り越えるためのポイントをまとめたいと思います。

櫻田 ROIC経営に取り組むために、配賦の精度より重要性を重視すること、権限・責任・評価を一体で設計すること、CFO組織として統合的にマネジメントすることなどをお話ししました。

岩佐 人事組織制度やAIなど新技術によって、課題を解決できる可能性については興味深く感じられた読者も多かったのではないでしょうか。

櫻田 高度な経営管理が求められる時代です。新技術を活用してシステムも進化しています。この辺りを次回、お話しできればと思います。

次回予告: 第3回では、ROIC経営の実践において今後ますます重要性が高まると考えられる投資管理について議論します。精緻な管理を行うためには適切なシステムの導入が必要となりますが、その具体的な要件や成功への道筋を詳しくお聞きします。

【対談】ROIC経営を支える組織づくり – CFO機能とFP&Aの実践的課題と解決策
第1回:ROIC経営の本質は企業価値の向上
第2回:組織・人事・システム…実務上の壁の存在と乗り越え方
第3回:成功への道筋 – 投資管理とシステム基盤の重要性

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