IBP(統合事業計画)とは?注目される背景や導入メリットを解説

不確実性の時代と呼ばれる現在、急激に変化する市場に対応するための方法として注目を集めているのが「IBP(統合事業計画)」です。IBPとは、グループ会社や全社の部門間で計画を統合し、全体のビジネスパフォーマンスを最適化するためのプロセスです。
では、具体的にIBPとは、どのような取り組みを指すのでしょうか。また、IBPを成功させるには、どのようなことに気を付ければ良いのでしょうか。
本記事では、IBPが注目される背景や主要なプロセス、導入メリットの他、IBPを成功させるためのポイントについても解説します。
IBPとは、グループ会社や全社の部門間で計画を統合する仕組みのこと
IBP(Integrated Business Planning)とは、全社レベルで部門やグループ会社間の計画を統合し、一貫性のあるビジネスプランを策定・運用する仕組みのことで、日本語では「統合事業計画」や「統合ビジネスプランニング」と呼ばれます。また、近年はIBPを支援するITツールも含めた意味で用いられることもあります。
IBPでは、従来のように各部門が個別に計画を立てるのではなく、生産、販売、在庫、財務などの情報をリアルタイムに一元化・可視化し、全社的に連携した計画を立てることで、生産の遅延、在庫過剰、在庫不足、予算オーバーなどのリスクを最小限に抑えることが可能です。
さらに、統合された計画を持つことで経営課題に対する迅速な意思決定を実現し、サプライチェーンだけでなく財務や事業戦略まで含めた全社的な最適化を図ります。
IBPは、単なる業務改善にとどまらず、全社の競争力を高める経営基盤の一つとして注目されています。
IBPの目的
IBPの目的は、部門ごとの計画を全社的な視点で統合し、企業の戦略的な目標と日々の業務を整合させた効率的な経営を実現することにあります。営業、製品開発、サプライチェーン、財務、マーケティングといった各部門が、同じ目標に基づいて連携・調整できる体制を作ることがポイントです。
各部門が独立して計画を立てると、部門間での情報のずれや連携不足により、需要予測と供給計画のずれ、過剰な在庫や欠品、財務計画との不一致といった問題が発生しやすくなります。IBPは、このような課題を改善し、経営資源の最適化と収益性の向上を目指すものです。
戦略と実行の一貫性を保ちながら、企業全体の業務効率と競争力を高めるための重要な手段といえるでしょう。
IBPは、S&OPを拡張した包括的な手法
IBPとよく比較される概念に、「S&OP」があります。S&OPはSales and Operations Planningの略称で、主に販売計画と生産・調達計画を連携させ、サプライチェーン全体を最適化するための業務プロセスのことです。S&OPは、中長期のオペレーション調整に特化した手法として、多くの企業で導入が検討されています。
一方、IBPはS&OPを基盤としてさらに拡張し、生産・販売・在庫管理だけでなく財務計画や中長期的な事業戦略までを組み込んだ、より広範囲で戦略的なマネジメント手法です。
つまり、S&OPがサプライチェーンやロジスティクスなどのオペレーションの最適化に焦点を当てているのに対し、IBPは経営全体の整合性と戦略実行を支援するフレームワークとして位置付けられています。
IBPとS&OPの主な違いをまとめると、下記のとおりです。
■ IBPとS&OPの主な違い
IBP | S&OP | |
範囲 | 企業全体(営業・マーケティング・財務・製造など) | 主にサプライチェーンとロジスティクス |
アプローチ | 部門横断的で全体最適化を目指す | 需要と供給の調整に重点を置く |
目的 | ビジネス目標を達成し、長期的な競争力を向上 | 需要と供給を調整し、中長期的な業務遂行を最適化 |
※S&OPについては下記をご参照ください。
注目が高まるS&OPとは?SCMとの違いや導入のポイントを解説
IBPが注目される背景
IBPが注目されている背景には、グローバル化、サプライチェーンの複雑化、予測困難な経営環境といった複数の要因があります。
近年、企業のグローバル展開に伴い、生産拠点や販売チャネルが海外に広がり、サプライチェーンが複雑化しています。加えて、顧客ニーズの個別化・多様化により、需給調整の難度はさらに高まっているのが現状です。
このような状況下では、従来の部門ごとの計画では限界があり、リアルタイムかつ全社横断的な情報共有と調整が欠かせません。また、パンデミックや地政学リスク、自然災害など、想定外のアクシデントに直面する機会も増えています。
IBPを導入していれば、市場の変化はもちろん、不測の事態にも柔軟かつ迅速に対応でき、事業の継続性を確保する体制を築くことが可能です。これにより、企業の競争力を維持し、市場変化への適応力を高めることにもつながるでしょう。
さらに近年では、IBPソリューション(ITツール)の高度化が進み、データ統合や予測分析、シナリオプランニングといった機能の精度が向上しています。その結果、以前よりも高度な計画立案と意思決定が可能になったことも、IBP導入を促進する要因の一つです。
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IBPの主要なプロセス
小売業において、IBPはどのように機能するのでしょうか。ここでは、IBPの主要なプロセスについて、具体的な活用シーンと併せて紹介します。

1. 需要計画(Demand Planning)
需要計画は、過去の販売実績や市場動向、季節性、プロモーション活動などを基に顧客ニーズを予測し、販売計画を立案するプロセスです。正確な需要計画は、生産や在庫の最適化に直結し、過剰在庫や欠品のリスクを防ぎます。
<具体的な活用シーン>
・店舗別・地域別の販売予測:商品配分を最適化し、在庫過剰を防ぐ
・プロモーション効果予測:発注量を調整し、需要に応じた在庫管理を実現
2. 供給計画(Supply Planning)
供給計画は、需要計画に基づき、生産や調達をどう構築するかを決めるプロセスです。
具体的には、必要な原材料や部品の調達計画、生産能力の調整、リードタイムの管理などを行います。このプロセスにおいて重要なのは、需要の変動に応じて供給体制を柔軟に調整することです。例えば、製造業であれば、工場の負荷状況を確認しながら、追加の製造シフトやサプライヤーとの調整などを行います。
<具体的な活用シーン>
・サプライチェーン全体の可視化:リードタイム短縮とコスト削減を図る
・ベンダー管理在庫の導入:効率的な在庫管理を実現
3. 財務計画(Financial Planning)
財務計画は、需要計画と供給計画の整合を踏まえ、売上・利益・キャッシュフローといった財務指標を予測するプロセスです。
需要と供給のバランスをとるため、財務計画ではコスト削減や利益最大化のための戦略が検討されます。新規事業や設備投資に対する資金調達計画を策定する際にも、財務計画は重要な役割を果たすでしょう。
<具体的な活用シーン>
・店舗改装計画に伴う投資回収シミュレーション:資金調達計画を策定
・新規出店に伴う資金繰り計画:キャッシュフロー管理を強化
4. 在庫計画(Inventory Planning)
在庫計画は、サプライチェーン全体での在庫最適化を行うプロセスです。
過剰在庫を避けつつ、需要に応じた適切な在庫レベルを維持するために、発注量や在庫回転率を管理します。例えば、工場においては、生産ラインの停止や遅延を防ぐために、部品や原材料の最適な在庫量を計算し、必要なときに必要なだけ調達することでコスト削減を実現します。
<具体的な活用シーン>
・在庫回転率の向上:倉庫コスト削減を実現
・規格外品の有効活用:販売チャネル開拓による収益増加
※SCMについては下記をご参照ください。
SCM(サプライチェーンマネジメント)の導入メリットや注意点とは?
5. 販売・運用計画(Sales & Operations Planning)
販売・運用計画は、需要と供給のバランスをとり、経営戦略と連携した意思決定を行うプロセスです。前述したS&OPは、このプロセスが該当します。
販売・運用計画では、市場の需要と供給のバランスを保つためにデータの収集・予測・調整を行い、営業や製造など各部門の計画を統合して、ビジネスの戦略目標達成を目指します。例えば、新製品のローンチに合わせて、販売予測に基づいた生産計画を立て、供給能力と需要のギャップを埋める調整を行うのです。
販売・運用計画は、企業全体のパフォーマンスを最適化するための重要なプロセスといえるでしょう。
<具体的な活用シーン>
・新製品ローンチ時の生産計画と販売予測の連携:供給と需要のギャップを埋める
・オムニチャネル対応の物流ネットワーク構築:顧客体験向上を図る
※S&OPの有識者インタビューについては下記をご参照ください。
■ S&OPの第一人者に聞く(前編)~日本企業が取り組むべきS&OPとは?~
■ S&OPの第一人者に聞く(後編)~導入のファーストステップと今後の動向~
6. 戦略的意思決定(Strategic Decision Making)
前述した需要計画、供給計画、財務計画、在庫計画、販売・運用計画の全ての情報を統合し、企業の長期的な目標と戦略に沿った意思決定を行うプロセスが、戦略的意思決定です。このプロセスでは、マーケットトレンド、競合状況、内部リソースなども考慮した上で、企業の方向性を定めます。
<具体的な活用シーン>
・M&A後の統合:PMIにおいてリソース再配分と効率化を図る
・地域別需給バランスに基づく店舗立地決定:戦略的な店舗展開を実現
IBPを導入するメリット
企業がIBPを導入すると、どのようなメリットが期待できるのでしょうか。ここでは、IBPの導入による主なメリットをご紹介します。
部門間の連携を強化できる
IBPを導入することで、企業内の異なる部門同士の連携が強化され、共通の目的に向かって協力しやすくなります。
従来、部門ごとに独立して行われていた計画策定や業務運営は、情報や目標の不一致から摩擦を生むことがありました。しかし、IBPは全社的なデータ統合を基盤にしているため、各部門間の情報共有や調整がスムーズになり、部門間の壁を取り除くことができます。
例えば、営業部門が予測した需要情報と製造部門の生産計画が統合されることで、在庫リスクや機会損失を低減し、全社的に整合性のある意思決定が可能になるでしょう。
全社的な状況を把握できる
IBPを導入し、需要、供給、在庫、財務などの情報を可視化することで、経営全体の状況をリアルタイムに把握できるようになります。これにより、経営層だけでなく現場のマネジメント層も、自部門の状況を企業全体の文脈で判断しやすくなります。
また、事業全体のパフォーマンスが可視化されるため、各部門や担当者の責任範囲が明確になり、目標達成に向けた具体的な行動が促進されるといったメリットもあるでしょう。さらに、サプライチェーン全体の可視化により、原材料調達から販売までのプロセスを最適化できます。
迅速な判断が可能になる
IBPの導入により統合された最新データを基に、タイムリーかつ精度の高い意思決定が実現します。IBPによって過去の実績データや市場動向を即座に反映させることができるため、業績予測(フォーキャスト)の精度向上にもつながるでしょう。迅速な判断は競争が激しい市場での柔軟性を高め、企業の強みとなります。
※フォーキャストについては下記をご参照ください。
フォーキャストとは?目的や行う手順、精度を高めるポイントを解説
戦略と現場を結びつけられる
IBPの導入には、企業の長期的な戦略目標と日々の業務を効果的に結び付けられるというメリットもあります。戦略的な目標設定は企業の方向性を定めますが、現場においては日々の業務がその戦略にどれだけ貢献しているかを常に確認し、調整することが重要です。
IBPは、戦略的な計画と実際の業務計画を統合し、現場で実行可能な形に変換します。
例えば、企業が新しい市場への進出を目指す場合、営業部門が市場調査に基づいた行動計画を立て、製造部門がその計画に沿って生産体制を整えることが可能です。これにより、企業全体が共通のビジョンに向かって進むことができ、より効率的に目標達成を目指せるでしょう。
リスクマネジメントを強化できる
IBPは、サプライチェーンリスクや市場変動リスクへの対応力を強化します。統合されたデータを基に潜在的なリスクを早期に検知し、適切な対応策を講じることが可能です。
特に、グローバルサプライチェーンが複雑化する現代において、このリスクマネジメント機能は重要といえるでしょう。
IBPを成功させるためのポイント
IBPは、企業の意思決定を戦略・財務・オペレーションの全体視点で統合する重要なプロセスです。ただし、IBPを効果的に機能させるには、いくつかの押さえておきたいポイントがあります。
IBPを成功に導くためには、次のポイントを意識することが大切です。
経営層が積極的に取り組む
IBPを形だけで終わらせず、真に機能させるためには、経営層のコミットメントが不可欠です。経営層自らがIBPの重要性を発信し、全社方針として位置付けることで、組織全体に主体性と目標達成への意識が浸透します。
また、部門間の連携を促すためには、経営層による「リソース配分」「役割の明確化」「実行支援」が欠かせません。このような経営層の積極的な取り組みにより、IBPが単なる計画ツールにとどまらず、戦略的な意思決定をサポートする重要なプロセスとして全社的に根付くことになるでしょう。
明確なKPIを設定する
IBPの成功を目指す上で重要なのは、明確なKPIを設定することです。部門ごとのKPIに加え、企業全体で共有するKPIを設定することで、全体目標達成に向けての各部門の役割と貢献度を明確にできるでしょう。
例えば、製造部門では原価や稼働率、営業部門では受注率や売上貢献を指標として設定することで、各部門が自部門のKPIと全社戦略との接点を明確に意識できるようになります。KPI設定から進捗のモニタリング、課題の特定、改善策の実行といった、一連の流れを明文化した計画書を作成するのもおすすめです。
推進に必要な人材・体制を確保する
IBPは、複数部門の知見を結集し、横断的な連携の中で推進していく取り組みです。IBPを導入・運用するためには、ビジネス全体を俯瞰し、戦略とオペレーションの橋渡しができる人材が求められます。社内での人材育成だけでなく、必要に応じて外部からの経験者を採用することも検討しましょう。
適切な人材を中心に、財務・営業・マーケターなどを含めたクロスファンクショナルチームを結成し、IBPのPDCAを機動的に回せる体制を整えることが重要です。
必要に応じてテクノロジーを取り入れる
IBPでは、部門ごとに点在する情報を統合し、リアルタイムで経営判断に活かす必要があります。その実現には、IBPに特化したテクノロジーの導入が効果的です。
例えば、計画と実績の自動突合、需要予測、シナリオ分析、KPIのダッシュボード化といった機能を備えたソフトウェアを活用することで、現場の負荷を下げながら、意思決定のスピードと精度を両立できます。
IBPを導入し、企業の市場競争力を高めよう
IBPは、グループ会社間および全社部門間で計画を統合し、一貫性のあるビジネス計画を全社的に策定する仕組みです。
不確実性が増す昨今では、グローバル市場の変動や顧客ニーズの多様化といった変化への柔軟な対応が求められています。こうした中でIBPの導入は、部門横断的な連携を促進し、計画と実行の整合性を高め、意思決定のスピードと精度を飛躍的に向上させるための、極めて有効な経営基盤となるでしょう。
株式会社アバントでは、国内の先進企業を中心に、IBP導入に関するコンサルティング支援を行っています。IBP導入に関するご質問やお悩み、ご相談がございましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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