「Excelによる財務シミュレーション」の限界および乗り越える方法
昨今、10年以上先の中長期の経営計画を立案したいという企業ニーズが増えています。しかし遠い未来であるほど不確定要素が多く、シミュレーションが複雑になることは避けられません。これまで財務計画にExcelを活用していた企業から「Excelベースのシミュレーションには限界があり仕組み化できないか」といった質問、相談が、私たちアバントのもとにも多く寄せられています。
今回はExcelベースでは実現できない、高精度で効率の良い中長期スパンの財務計画シミュレーションを実現する方法とコツを紹介します。
優れたツールExcelを利用するデメリット
すべての業務においてExcelの使用をやめるという選択は現実的ではないでしょう。基礎的な経理業務においてExcelは現在も優れたツールであるためです。よく「脱Excel」といった表現が使われますが、必ずしもこの言葉に踊らされる必要はありません。言葉がひとり歩きしているように感じられます。
とはいえ、Excelに固執することによるデメリットにも目を向けなくてはなりません。
Excelが不向きな業務では非効率である
本来Excelでカバーすべきでない不得意な業務も、Excelの運用を継続している組織が多いのも事実です。
高度な財務シミュレーションは、その典型的な例と言えるでしょう。比較的簡単なシミュレーションには耐えられても、昨今ではより複雑な計算が求められるためExcelで実行できる内容には限界があります。
業務が属人化するリスクが高まる
Excelの習熟度が高いスタッフによって独自のマクロを組むなど、現場の工夫によってシミュレーション業務をこなしているケースもあります。
しかし、シミュレーション用に作成したExcelは設定や使い方が複雑で、運用は特定の担当者に依存されがちです。結果として、業務の属人化によるリスクが高まり、組織の変化やメンテナンスへの対応にも余計な手間が生じます。
シミュレーションのレベルが停滞する
中長期的で不確定要素の多いシミュレーションは、変化の激しい時代においては当然の要請とも言えます。
しかしExcelで実行できるシミュレーションの範囲には限界があり、Excelに固執することは、目指すべき高度なシミュレーションを放棄することにつながりかねません。
本来のシミュレーション内容を構築し、本当に見たい内容がチェックできているかを確認するのがよいでしょう。
Excelを使いつつ高度な財務シミュレーションを行うコツ
Excelとは別に、シミュレーションを専門的に行う有料ツールの併用が、高度な財務シミュレーションにつながります。
財務シミュレーションを細分化する
「財務シミュレーション」は「定型シミュレーション」と「アドホックシミュレーション」の2つに大別されます。
それぞれの違いを簡単にまとめると、次の通りです。
種類 | 概要 | 具体例 |
定型シミュレーション | 特定の前提条件に基づいて行うシミュレーション | 中期計画の進捗確認など |
アドボック(自由探索型)シミュレーション | 以下のいずれかに該当するもの ・そのときどきのイベントや時勢などを鑑みて、都度行わなければならないシミュレーション ・ルールが自由なシミュレーション |
コロナ禍や半導体不足などを踏まえたシミュレーション |
まず定型シミュレーションのPDCAサイクルを確立し、シミュレーションを仕組み化しましょう。定型シミュレーションを行う時期やその際の前提条件は、ある程度決まっているものです。毎回同じ内容にすることを心がけることで、人力で対応する工程を減らしやすくなります。過去のデータとの比較もしやすくなり、短時間で有意義な財務シミュレーションができるようになるはずです。
これは、アドホックシミュレーションにおいても同様です。アドホックシミュレーションは定型シミュレーションに比べると変動する要素が多い傾向にありますが、それでも毎回同じ前提条件で済む部分もあります。
本当に収集すべきデータを見極める
そもそも、必要以上のデータを収集しようとしていないかも確認すべきポイントです。
シミュレーションに使う予算額・見込売上額などの元データの収集に苦戦しているために、思うような試算ができていない企業もあるためです。
自社が求める財務シミュレーションを行うためにはどういうデータが必要なのか、きちんと見極めることも重要です。
Excelが得意とする業務のみに集中させる
Excelが不得意な領域の業務については、脱Excelを進めるのがよいでしょう。
財務シミュレーションをExcelだけで完結させようとせず、Excelを活用する業務をデータ入力・出力のみにすることもポイントです。
Excelを使った不十分なシミュレーションには、余計な工数がかかります。他の業務にも影響が出るでしょう。そこで、Excelはデータ収集のためのみに使うことが例となります。
特にExcelをデータベースとして使うのは、管理上の効率も悪いため、避けたほうがよいでしょう。Excelはあくまでも社内の関係部署でのデータ入出力・共有のみに活用することをおすすめします。
Excelを活用して財務シミュレーションの仕組み化をした事例
実際に、Excelを活用して財務シミュレーションの効率化・精度アップができた事例を簡単に紹介します。
これは20社のグループ企業がある自動車部品メーカーで、もともとExcelのみで財務シミュレーションを行っていました。「製造して販売さえすれば会社が成り立つ」という体制が確立されていたこともあり、3~5年スパンでの財務シミュレーションで事足りていました。
ところがコロナ禍や半導体不足、円安などの影響もあり、10年以上の長期スパンでのシミュレーションも求められるようになってきたといいます。しかし、そうした変化を踏まえたうえでのシミュレーションはExcel単体では難しく、限界を感じ始めたそうです。
そこでExcelに加えて経営管理システムを導入し、シミュレーションの仕組み化に取り組みました。各部署がExcelに入力したデータを収集し、経営管理システム上で集約・一元管理する体制にシフトしたのです。
その結果、グループ全体のデータベースができ、精度の高い中長期シミュレーションができるようになりました。全社共通のデータベースができたことにより、製品別・顧客別などの多軸分析をしたり、各部署が必要な時に試算データを抽出したりすることも容易になったといいます。
まとめ
Excelは優秀なツールであり、経営管理システムなど財務シミュレーション用のツールを組み合わせれば十分、精度の高い財務シミュレーションが可能です。ただしそのためには、Excel単体での財務シミュレーションから脱却することが重要だと言えます。
そのため、まずは財務シミュレーションをより細分化して考える、収集すべきデータを見極めるといったことに取り組みましょう。Excelを捨てるのではなく、ツールとしての優れたところだけを使う発想、そして不足している機能を他のソリューションで補完するアプローチが重要です。
【本記事の監修者】
株式会社アバント
グループ経営管理事業部 ビジネスマネジメント部 中澤 良平
<経歴>
大手Sier~外資系コンサルファームを経て現職。製造業を中心とした基幹システムから経営管理・管理会計システムの導入が専門。主な役割は各種提案、構想整理コンサル、プロジェクト推進責任者など。多数のお客様にて、構想整理から要件定義~構築、本稼働後の保守支援含め一気通貫で対応。