なぜ事業別ROICは現場に浸透しないのか?経営企画が果たすべき役割とは
事業別ROICを導入したものの、現場に浸透せず形骸化している企業は多いものです。背景には、社内で事業別ROICそのものへの理解が及んでいないことに加えて、根本にある「ROIC」の分かりづらさも関係していると考えられます。
本記事では現場に事業別ROICを浸透させるための手法と経営企画の役割を解説します。
事業別ROICが浸透しない3つの理由
事業別ROICの意義が社内で十分に浸透しない組織では、導入前・導入後・運用開始後の3つのフェーズでそれぞれ課題があると考えられます。
なぜ事業別ROICへの理解が進まないのか、導入が決まってもスムーズに運用されないのか、3つの観点から整理します。
1.事業別ROIC導入に必要な環境が整わないため
事業別ROIC算出に必要なデータの整備が進まないことや、算出した数値の整合性や正確性に疑問を抱いたまま足踏みしている状態になってしまっている場合があります。
【例】
・資産や負債をどの事業に割り振れば良いか分からず、事業別のBSが作れない
・各事業部門で管理しているデータ形式や精度がバラバラで、正確な事業別ROICが算出できない
・全社的に納得感のある本社費用や共通費の配賦ルールが作成できていない
2.事業別ROICの使い方や意義が社内で定着しないため
事業別ROICを導入しても、社内でその目的や活用方法が十分に理解されず、形骸化するケースもあります。
【例】
・事業別ROICを導入したが、活用方法が分からず形骸化している
・導入に際して社内の理解が十分に得られず、合意形成や現場への浸透が進まない
・現場のKPIや日々の業務と事業別ROICの指標が連携しておらず、単なる数字合わせになっている
3.事業別ROIC関連の業務が属人化してしまうため
事業別ROIC作成や必要なデータの入力が一部の担当者に依存してしまい、組織全体での活用につながらないことも大きな要因です
【例】
・事業別ROICの管理をExcelで行っているため、業務が属人化している
・データの集計・加工が手作業で一貫性にリスクが生じており、算出された数値への整合性に対し疑念が残る
・リアルタイム分析や複数年度比較などができず、経営の意思決定スピードが低下している
ROICが分かりづらい根本的な要因
事業別にROICを算出してモニタリングする難しさに加え、そもそもROICという指標自体が分かりづらいことが事業別ROICが浸透しない要因でもあるでしょう。
「ROICが分かりづらい」とされる要因は、主に以下の2つです。
1.【構造的な複雑さ】複数部門の活動が集約された指標であり、部門横断的に捉える必要があるため
2.【指標としての扱いにくさ】変動要素が多く、日常的に用いられる事業KPIとの乖離が起こりやすいため
それぞれについて解説します。
1.複数部門の活動が集約された指標であり、部門横断的に捉える必要がある
前提としてROICは、複数部門の活動が集約された総合指標です。投資家の視点で見れば、投資効率を図りやすい点がメリットです。
しかし複数部門の活動が集約されているため、各部門の活動がどのようにROIC改善に寄与しているのか分かりづらくなるという側面もあります。
2.変動要素が多く、日常的に用いられる事業KPIとの乖離が起こりやすい
ROICに変動要素が多いことも、理解を難しくしている一因です。ROICは、以下のように複数の要素から構成されます。
上図のとおり、事業KPIは各部門で異なります。また、変動要素が非常に細分化されている一方、構成要素は非常に単純です。これにより、どの変動要素がどの構成要素につながるか把握しづらくなります。また、事業KPIは様々な構成要素と連動しているため、どこにどう影響しているか見えづらいといった事態を招きます。
結果的に、各部門のどの活動がROIC改善に重要なのか見えなくなっているのです。
「ROICツリー」にも限界がある
事業別ROICを、以下のような一覧表形式でまとめている企業もあります。
一覧表形式は、事業比較や経年推移の確認がしやすい一方、どの事業にどのような課題が発生しているのか分かりづらく、数値の変動要因も把握できないという懸念があります。
こうした課題を解決するため、以下のような「ROICツリー」を作成し、社内で活用している企業もあります。
ROICツリーは網羅的で、かつROICが具体的な行動に落とし込まれているため投資家・経営層向けのアピールには便利です。しかし「何が重要なアクションか」「何が課題でどう改善するのか」が見えにくく、自社が抱える具体的な課題の発見や現場のアクション決定にはつながりづらいという欠点があります。
つまり社内に事業別ROICを浸透させるためには、ROICツリーからさらに一歩踏み込んで活用する必要があると言えます。
事業別ROICを浸透させるために必要な対応
社内にROICや事業別ROICを浸透させてROIC経営を実現するためには、経営企画部門がROICを「翻訳」し、現場に伝える立ち回りが重要です。
経営層には事業別ROICに基づく戦略を提案しましょう。一例として、以下のようなことが考えられます。
・中長期のポートフォリオ策定
・M&Aや事業撤退の要否
・IRでの活用
事業現場に対してはROICをそのまま伝達するのではなく、構成要素を各部門の事業KPIに分解し、事業ごとに解説する手順が重要です。以下のようなレベルまで分解したうえで現場に伝えるとスムーズでしょう。
・予実差をどう埋めるか
・ROICを踏まえて、設備投資の金額をいくらにすべきか
・生産性の向上をどの程度まで目指すか
事業別ROICの分析方法
ROICを「翻訳」するには前年度のROICから、各構成要素のROICへの影響度を可視化することが必要です。その事前準備として、事業別ROICの算出も必要です。
以下では、事業別ROICの分析方法を解説します。
まず、ヘアケア部門に絞ってデータを抽出すると、以下のような結果が図示されます。
このデータを分析すると、以下のようなことが分かります。
・売上高の上昇に伴い、売上原価・販管費・利益も向上
・有形固定資産・無形資産の増加が、ROICを押し下げる要因に
・トータルで当年度ROICは前年度より1.8%改善した
同じく、スキンケア用品に絞ってデータを抽出すると以下の結果となります。
このデータからは、以下のようなことが読み取れます。
・売上高と利益が大きく伸長している
・固定資産の増加がROICの押し下げ要因になった
・今年度のROICは前年度比3.5%低下している
このように、事業別ROICを分析することで「有形固定資産の内容が適切なのか」「投資による効果がいつ現れるのか」などを、PL・BSのインパクトを見ながら考察できます。その結果、ROIC改善に向けた活動へ注力できるのです。
ただし、事業別ROICのデータで分析できるのは勘定科目レベルの内容までです。「スキンケア部門の固定資産の増加はなぜ起こったのか」といった、その結果が起こった理由の特定には、調査や事業部へのヒアリングといった人の手によるプロセスが欠かせません。
まとめ:事業部ROICを浸透させるポイント
事業別ROICを社内に浸透させるには、経営企画部門がROICの変動要因を把握し、提示できなくてはなりません。そして「事業活動がどのようにROICに反映されるのか」という実感を現場に持たせたり、事業で起こりうることや起きたことを現場にヒアリングしたうえで方策を一緒に考えたりすることが重要です。
この2点への対応が、事業別ROICの浸透度合いを左右すると言っても過言ではありません。事業別ROICの浸透に課題を感じている企業では、今回紹介した内容を参考にしていただければ幸いです。
監修
株式会社アバント DXソリューション部 部長 大久保 一樹
<経歴>
連結決算業務におけるシステム運用や、連結会計処理などの業務運用支援に携わった後、事業別ROICの可視化、事業ポートフォリオマネジメント基盤の構築、経営ダッシュボード導入、予実管理システム導入などの管理会計プロジェクトに参画。現在は、制度会計の会計処理から、管理会計の実務、システム導入のポイントなど幅広い論点で、お客様のプロジェクトを支援。
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