なぜPSI計画の運用は難しいのか?財務計画との分断を解消する方法
近年、製造業を取り巻く経営環境は変化し続けています。目まぐるしく変わる環境に柔軟な対応を繰り返しながら利益の最大化を図るには、財務計画と統合された「PSI計画」が必須です。
PSI計画を取り入れているものの、うまく運用できていない企業も多いのが実情です。要因の1つが、財務計画や社内との“分断”だと考えられます。本記事では財務計画と連動したPSI計画を立てる方法や、分断を未然に防ぐポイントを解説します。
PSI計画の概要
まずPSIおよびPSI計画に昨今、注目が高まっている背景について解説します。
PSI計画の重要性
PSIとは、サプライチェーンの主要な工程である
●生産(Production)
●販売(Sales)
●在庫(Inventory)
この三要素を指します。
これらを総合的に管理する手法が「PSI管理」であり、三要素それぞれの計画を統合し、最適な生産計画を策定するのが「PSI計画」です。
PSI計画を立てることで在庫管理の最適化や生産効率の向上などのメリットが見込まれるため、多くの企業で導入が進んでいます。
PSI計画の基礎的な解説が知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
PSI とは?在庫最適化を図る PSI 管理の手順や導入メリットを解説
製造業が直面する3つの変化
昨今、サプライチェーンを取り巻く経営環境は、以下のように変化しています。
1.地政学リスクや為替変動による需要予測の難化
2.グローバル化による競争激化、サプライチェーンの複雑化による需給調整高度化
3.原材料や人件費のコスト増加
こうした変化に対応するためには、それぞれに応じた対策を講じなければなりません。
1.の地政学リスクや為替変動による需要予測の難化に対応するには、自社で需要予測の高度化を図る必要があります。
また、2.のグローバル化による競争激化への対策としては、統合的な計画策定を行うことで国際競争力の向上が求められるでしょう。
3.への対策としては、在庫削減によるコスト削減が挙げられます。加えて、具体的にどの程度のコスト上昇が発生しているのかの把握も必要です。
そこでより精度の高い生産計画を策定し、適正な在庫管理を維持するために重要とされるのが、PSI計画です。
PSI計画を財務計画と統合させることで、経営シミュレーションの高度化が期待できます。事業計画(モノ)と財務計画(カネ)を別々に管理していては、施策の財務インパクトが見えず、利益達成のための具体的なアクションも描きにくくなります。両者を統合し、「この生産計画なら損益はどうなるか」「在庫削減は資金繰りにどう影響するか」といったシミュレーションを可能にすることで、実効性の高い経営判断につながるはずです。
高精度なPSI計画に基づく事業計画によって、財務計画の精度も高まります。そして、優れた財務計画の恩恵により、事業がさらに伸びるという好循環を生み出せる可能性も高められます。
PSI計画が求められる背景
PSI計画は、コーポレートの観点から見ても有効な取り組みです。事業と連動した全体最適な計画の実現のために取り組む企業は増加しています。
しかし、PSI計画を立案したものの財務計画とうまく連動させられず、それぞれの計画が孤立しているケースも珍しくありません。こうした“分断”が起こる背景には、以下のような要因があると考えられます。
●サプライチェーンを構成する各組織が分社化し、販売・生産・物流が複数の国や拠点へ分散・複雑化したことで、サプライチェーンの把握が困難になった
●事業サイドは「モノ・ヒトの管理」が中心である一方、コーポレートでは「カネの管理」がメインで、サプライチェーン全体で同じ視点を持てていない
●グループ会社間または社内の部署間で保有しているデータの体裁、内容が異なる
PSIと財務、双方の計画の分断を放置すると、社内全体の計画精度の低下を招き、最終的には企業価値をも低下させてしまうリスクをはらんでいます。こうした事態を未然に防ぐためにも、財務計画と統合されたPSI計画(≒サプライチェーン全体の統合計画)の立案は喫緊の課題だと言えるでしょう。
財務計画と統合されたPSI計画の立て方
財務計画との分断を防ぐためには、PSI計画の立案の時点から財務計画との統合を意識することが重要です。具体的な立案方法を解説します。
財務計画と統合されたPSI計画立案のフロー
財務計画との統合を意識したPSI計画を立てるためのフローは以下の通りです。
1.過去の販売数や在庫数、生産計画数などのデータを基に需要予測をする
2.需要予測に基づいて販売計画を立てる
3.策定した販売計画に基づいて生産・在庫計画を策定する
4.3の実現可能性(キャパシティプランニング)と、損益分岐点を確認する
5.2~4をP/Lに落とし込み、収益性を確認する
6.同じく2~4をB/Sに落とし込み、ROICを確認する
7.同じく2~4をC/Fに落とし込み、資金繰りチェックをする
なお全工程が一方通行に進むことは少なく、一般的には2~5の工程を繰り返しながら、実現可能性と収益性のバランスが取れた計画に仕上げていきます。このようにPSI計画と財務計画を行き来させることで、「作れるか」「売れるか」だけでなく「儲かるか」「資金は回るか」まで含めた、経営実態に即した計画策定が可能になります。
より計画の精度を上げるために、AIツールを使った予測や、外部の市場データを取り入れるなどの方法を取るのも良いでしょう。
財務計画や社内との分断を未然に防ぐポイント
前述の工程で特に重要なのが、4~5へのステップです。このステップはいわば「PSI計画(モノの計画)」を「財務計画(お金の計画)」に変換する工程です。これがPSI計画と財務計画の分断を未然に防ぐ大切なポイントだと言えます。
そのためには、いかに社内全体からデータを収集できるかが物を言います。
P/Lを作成する際は、生産関係のデータのみならず人件費・広告費なども含めて多種多様なデータを収集することが大切です。多くの部署から多くのデータを集めるほど精度の高い生産計画の立案に繋がり、全体最適・利益最大化分析が可能になります。
結果的に1社単位や個別の国単位にとどまらず、グループ企業ベース・グローバルベースで生産計画の最適化が可能になるでしょう。
PSI計画立案の手順と実務での留意点
以下の手順が、PSI計画立案の一般的なフローと考えられる場面もあります。
1.販売計画を立てる
2.販売計画を基に生産計画を立てる
3.生産計画に基づいて在庫計画を立てる
4.在庫計画を踏まえて調達計画を立てる
ただし実際には、これほどシンプルなPSI計画が立てられるケースは多くありません。「受注生産をしている」「見込生産をしている」「販売部門が在庫を管理している」など、企業により製造体制が異なるためです。
そのため、一般的とされる手順に固執せず、自社の体制に応じたPSI計画の立案を心がけるのがよいでしょう。
まとめ:PSI計画と財務計画の統合で戦略的な意思決定を
製造業を取り巻く環境が変化し続ける中、今後の製造業界ではPSI計画と財務計画の“分断”を乗り越えることが企業価値向上には重要です。
自社のモノ・ヒト・カネのデータを統合し、全社横断でデータを収集することで、高度な経営シミュレーションが可能になるでしょう。まずは自社におけるPSI計画の取り組み状況や財務計画との分断状況などをご確認いただいた上で、対応できる範囲からスモールスタートし、徐々に統合の範囲を広げていってはいかがでしょうか。
監修
株式会社アバント プロダクト開発本部 プロダクト企画統括部 プロダクト事業推進部 部長 山崎 恒
<経歴>
大手会計事務所コンサルティングファーム在籍時より、ディーバ社(現アバント社)設立に関与。ディーバ社設立後、プリセールス・導入コンサルティング・保守サポート部門立ち上げ、コンサルティング事業統括などを歴任。総合商社・医薬業・大手製造メーカーなどにおける各種経営管理システム開発・導入プロジェクトを多数経験し、現在は「AVANT Cruise」を中心とする自社プロダクト事業推進部門を担当。
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