需要予測・計画の現在地とAIエージェントが実現する将来像 【後編】
企業経営においては、予測結果をどう活用して意思決定に結びつけるかが、より重要な課題となっています。複数のシナリオを比較し、収益シミュレーションを重ねることで初めて、実効性のある計画を描くことができます。
本稿はスマート・アナリティクス株式会社、日本アイ・ビー・エム株式会社、株式会社アバントによる共催セミナーをもとにAIエージェントの活用にあたって重要な考え方やツールの具体的な特徴について解説します。
前編では、需要予測の精度を高める基本的な考え方とAIを活用した分析の最前線について解説しました。
需要予測・計画の現在地とAIエージェントが実現する将来像 【前編】
後編は、予測データに基づくプランニングと、そしてAIエージェントを活用した将来分析について解説します。需要予測をどう計画に落とし込み、将来的にどのようにAIが意思決定を支援するのか、その道筋を探ります。
需要予測の内容をプランニングに落とし込む必要性
需要予測は、販売計画や生産計画を立てる上でのスタート地点に過ぎません。実際の企業活動では、予測値をもとに生産量や販売量など具体的なプランニングへと落とし込む必要があります。
現代のように不確実性の高い時代では、経済動向や国際情勢など、さまざまな変動要因を考慮しなければなりません。原材料価格の高騰、為替相場の急変、地政学的リスクの顕在化など、企業を取り巻く環境は日々変化しています。こうした社内外の制約条件を加味しながら、常にベストケースとワーストケースを把握しておくことで、想定外の環境変化にも柔軟に対応でき、リスクを最小化した経営判断へとつながるのです。
AI活用によってプランニングを容易にできる
予測データを実際の計画に落とし込むには、プランニングツールの活用が効果的です。プランニングツール全般に共通する特徴として、意思決定精度を向上させるための多様な機能が備わっていることが挙げられます。これらの機能により、単なるデータの集計だけでなく、戦略的な意思決定が可能になります。
特性1: 多次元データベースによる柔軟な分析
データ分析の柔軟性を大幅に高める特性として、プランニング系製品の多くで採用されている「多次元データベース構造」があります。この構造により、部署別・製品別・顧客別など、多角的な切り口で同じデータを瞬時に閲覧できるようになります。
Excelなどの管理では、組織や部門ごとに個別のシートやブックを作成することが一般的でした。その結果、データの粒度や切り口が統一されず、組織間での情報共有に大きな障壁が生まれていました。
しかし多次元階層構造では、入力データが自動的に積み上がり、組織全体で同じ粒度のデータを共有できます。これにより、部門を越えた円滑な意思疎通ができ、さまざまな部門の意見を反映した経営判断を下せるようになります。
特性2:シナリオを踏まえた計画立案が得意
プランニングツールの最も有用な機能の一つが、シナリオ管理・バージョン管理機能です。予算の1版、2版…といったバージョン管理はもちろん、通常案・悲観案・楽観案など、複数のシナリオを同時に作成し、管理できます。
ビジネス環境の変化が激しい現代において、原料高騰や為替変動などのリスク要因を織り込んだ複数パターンの計画を準備しておくことは、もはや必須の経営手法と言えるでしょう。Excelでの管理では、異なるシナリオ間でのデータ比較が煩雑になりがちですが、プランニングツールを活用すれば、部門横断で同じデータを参照しながら、自由に比較分析できます。
実績に基づく予測値の算出には統計予測ツールが有効である一方、今後の市場動向や会社の戦略方針など、過去データが存在しない要素については、経営陣や現場の知見を活かした人間の判断を加える必要があります。このような人間によって「意思入れ」するプロセスこそ、AIツールを真に活かすための重要な要素となります。
特性3:需要予測データの簡易作成も可能
専門的な分析ツールを使わなくても、プランニングツール内で予測機能を持つ製品も登場しています。こうした機能は用途に応じて3つの予測手法を使い分けることができます。
ベースライン予測
管理者やモデル作成者が活用できる基本的な予測機能で、予測値と比べ実際の成果を検証、比較し、計画の改善点を発見できます。定期的な自動予測を実行するために、外部スケジューラーとの連携機能を備えたツールも存在します。
単変量予測
履歴データの特性から将来の予測値を算出します。たとえば、Holt-Wintersモデル(時系列と季節変動を考慮する予測手法)を採用することで、データの傾向と周期的な変動を同時に考慮した精度の高い予測を実現できます。
多変量予測
より複雑な分析に対応する機能です。履歴データだけでなく、指定された変数間の依存関係も分析に組み込むことで、より現実に即した予測が可能になります。
プランニングツールの具体例
プランニングツールの一例として、IBM Planning Analytics(IPA)を紹介します。IPAは、さまざまな財務・業務計画の最適化を実現するクラウド・ソリューションで、予算や計画の収集機能に加え、分析やシミュレーションでも強みを発揮します。
財務領域に特化した製品は多く存在しますが、それらは特定の業務プロセスに最適化されているため、自由な業務設計が困難な場合がほとんどです。これに対してIPAは、幅広い業務領域や複雑な業務フローにも対応できる柔軟な機能とモデルを提供しています。
IPAをはじめとするプランニングツールを効果的に活用することで、計画精度が飛躍的に向上し、意思決定の質向上と事業リスクの低減が期待できます。
プランニングがもたらす価値
プランニングツールは、算出した需要予測データをベースに、データには表れない経営判断や市場環境の変化といった変数を手作業で計算に加えることができます。それにより、単なる数値の羅列を実践的な計画へと落とし込めるようになります。
部門間で起こりやすいデータや認識の分断を解消できる点も、重要な効果の一つです。プランニングツールにより同じデータ基盤で意思疎通が可能となることで、組織全体の連携が強化されます。
そのほかの価値として、分析・シミュレーションからシナリオ予測までの計画サイクルを大幅に短縮できる点も挙げられます。これまで数週間かかっていた作業が数日で完了すれば、その分経営判断のスピードも向上します。
AIエージェントが開く需要予測の新たな可能性
需要予測や計画策定におけるAI技術は急速に進化し続けており、すでに実用段階へと進化してきました。最新のAIツールは、専門的な分析スキルを持たない担当者でも、自然な言葉で指示するだけで必要なデータの取り込みから結果の可視化まで実行できるレベルに達しています。
たとえば、特定地域で売上が増加した要因を分析したい場合、従来は複雑な操作や専門知識が必要でした。しかし現在のAIは、データの変化パターンを自動的に検出し、重要指標を特定したうえで、その背景にある要因まで分析・考察してくれます。
人間が細かく指示しなくても、AIが自律的に仮説を立てて検証するという、まさにアシスタントとしての役割を果たすようになったのです。
このようなAIの進化は、分析担当者の業務効率化から経営層の意思決定プロセスまで、広く変革をもたらします。データ分析担当者は、予測データの取得・加工の自動化により本来注力すべき戦略的な分析に時間を割けるようになり、複雑な分析結果を分かりやすく要約した説明資料も効率的に作成できます。
一方、経営層や意思決定者は、分析結果から導き出された客観的な判断材料を迅速に入手でき、複数のシナリオを短時間で比較検討できるようになります。従来よりも格段に速く、かつ根拠に基づいた経営判断が可能になります。
アシスタントの先にある「AI従業員」という世界
AIは単なる作業アシスタントから、業務を担う真のパートナーへと進化しつつあります。IBMが見据える将来像では、簡潔な指示を与えるだけで、AIが主体的にシナリオ分析やグラフ作成を行い、収益や粗利といった重要な経営指標の管理も瞬時に実行できるようになる姿が描かれています。
この進化が実現すれば、分析知識の有無は完成なく誰でも、高度なシミュレーションを短時間で作成し、事業の将来展望について有益な示唆を得られるようになります。自社特有の業務知識やノウハウをAIに学習させることで、そのAIは企業固有の背景を理解し、より実践的な提案ができるようになるでしょう。
こうしたAI従業員は、単に作業を効率化するだけの存在ではありません。意思決定に至る論理的なプロセスを明確に示し、人間の認知バイアスによって見過ごされがちなリスクや新たなビジネスチャンスを客観的に指摘します。このような知的パートナーとしてのAIが、企業の戦略的判断を支援する時代が現実のものとなりつつあります。
まとめ:需要予測よりもその先に向かう方法
需要予測の精度向上だけでは不十分な現代において、予測からプランニング、実行まで一連で管理することが経営成功のためには欠かせません。
予測データをプランニングツールで実践的な計画に落とし込むことで、組織全体が同一のデータ基盤で意思疎通できるようになります。さらに、複数シナリオを同時管理することで、原料高騰や為替変動などの不確実性にも柔軟に対応できます。
さらに、予測値に経営判断を反映させ、実行可能な計画へと変換していくことで、将来的にはAIエージェントがこのプロセスをも支援していくでしょう。テクノロジーと現場の知見を融合させることで、不確実性の時代に対応できる柔軟な経営判断が実現します。
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IBM Planning Analytics with Watsonは、AIを活用した統合計画ソリューションです。部門間の精度の高い計画や予測を単一のプラットフォーム上で迅速に作成し、リアルタイムでの方向転換や意思決定の加速、パフォーマンスの向上が可能です。オンプレミス、クラウド、またはIBM Cloud Pak for Data上に展開可能です。
