投稿日:2025.11.18
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ROIC経営・グループ管理会計

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セミナーダイジェスト

現場に浸透するROIC経営実践ガイド【第12回】ROIC経営でPLの「NOPAT」が重要となる理由

本シリーズでは、ROIC経営を成功に導くための実践的な方法を解説しています。

前回は、事業別ROICを算出する最適な頻度について、PL・BS両面の実務的な論点からご紹介しました。
現場に浸透するROIC経営実践ガイド【第11回】年度・月次・四半期、最適なモニタリング頻度とは

ROIC(投下資本利益率=利益 ÷ 投下資本)を算出するにあたって、多くの企業では、分子の利益に、営業利益を用いています。
営業利益は本業の儲けを示す重要な指標ですが、ROICという「投下された資本に対してどれだけのリターンを生んだか」を測るものさしとして見た場合、最適なのかという議論が残ります。
営業利益による評価から一段階進化させ、税務上の影響を適切に反映した経営指標として「NOPAT(ノーパット=税引後営業利益)」の活用が求められています。

本記事では、ROIC算出に大きな影響を与える利益の取り扱いについて詳しく解説します。「NOPAT」とは何か、なぜROIC経営において重要なのか、そして事業別PL(損益計算書)を作成する上での実務的な論点を紹介します。

ROICの算出にNOPAT(税引後営業利益)を用いるべき理由

「NOPAT」という言葉に馴染みのない方も多いかもしれません。これはNet Operating Profit After Taxの略で、税金を差し引いた後の事業活動から得られる利益を指します。すなわち、税引後営業利益です。

計算式としては、以下のように表されます。
・NOPAT=営業利益 × (1 – 実効税率)」

税金を差し引いたNOPATをわざわざ算出し、計算に用いる必要性は、以下の2つのメリットにより解説が可能です。

NOPATのメリット1:事業の純粋な稼ぐ力を評価できる

NOPATの最大のメリットは、会社が本業だけでどれだけ利益を出しているのかを、税金の影響まで考慮した上で把握できる点にあります。

営業利益から法人税などの影響を差し引くことで、事業活動が最終的にどれだけのキャッシュ創出に貢献したかを、より実態に近い形で評価することを可能にします。

NOPATのメリット2:資本コスト(WACC)との比較整合性が取れる

ROIC経営の目的は、ROICが資本コスト(WACC)を上回る状態を創出し、企業価値を高めることにあります。

ここでは、比較対象であるWACCが税引後の指標であるという点が重要です。比較するROICの利益も同じ税引後のNOPATを用いることで、両者の前提条件が揃うため、投下資本とそれを調達するためのコストの比較が厳密な意味で可能となるのです。

【実践編】事業別PLを作成する上での3つの主要論点

次に事業別のPLを実際に作成する際の論点を確認します。

管理会計では、事業別PL作成を通じて、各事業のパフォーマンスを正しく評価し、現場のアクションにつなげることが重要です。

論点1:事業ごとの共通費の配賦管理

本社の経費や全社共通の広告宣伝費など、特定の事業に直接紐づかない費用の配分方法は、常に議論となるポイントです。

ここでは会計上の正しさよりも、事業責任者がその配賦ルールに納得し「コントロール可能だと感じられるか」という視点のほうがより重要です。

実務的には、売上総利益と営業利益の間に「事業部貢献利益」といった段階利益を設定し、議論のステップを整理することで、納得感を醸成しやすくするアプローチも有効でしょう。

論点2:非事業の金融関連取引などの取り扱い

親会社が借り入れた資金で子会社の設備投資を行った場合などは、借入金や社債のように金融に関わる取引から生じる収益・費用をどの階層に反映させるか、明確なルールが必要です。

事業部門には本業の収益性に集中してもらい、資金調達や財務活動はコーポレートの責任範囲として明確に切り分ける考え方が一般的です。

論点3:NOPATの期間に関する判断

事業別のPLとNOPATの定義が固まったら、どの期間で算出し評価するかというルール決めも重要な論点となります。

季節による売上変動が大きい事業の場合、四半期ごとのNOPATを測定し、それを基に評価を行うパターンが多く見られます。年間のNOPATで評価するのか、四半期のパフォーマンスを重視するのか、自社の事業サイクルや管理目的に合わせて設計することが重要です。

まとめ

今回は、ROICの分子となる利益の考え方について、NOPATの重要性と事業別PL作成の論点を解説しました。

共通費の配賦ルールや段階利益の設定など、論点に絶対の正解はありません。大切なのは、ルールの正しさよりも、そのルールによって現場からどのようなアクションを期待するかという目的意識を持つことです。

ROICという指標を現場に浸透させ、企業価値向上につなげるには、こうした管理会計上の設計思想が極めて重要になります。

次回は、ROIC算出時の分母であるBS(投下資本)の論点と、シリーズ全体の総括をお届けします。
現場に浸透するROIC経営実践ガイド【第13回】事業別BSの精度を高める「資産の切り分け」と「投下資本の3つの計算方法」

本シリーズの一覧

現場に浸透するROIC経営実践ガイド【第1回】コーポレートと事業部における認識ギャップ解消へのアプローチ
現場に浸透するROIC経営実践ガイド【第2回】ROIC経営に向けたBS算出方法の最適解
現場に浸透するROIC経営実践ガイド【第3回】グループ事業におけるPL|ROICに重要な外部売上高の認識と管理方法
現場に浸透するROIC経営実践ガイド【第4回】事業別PL科目の管理体系を整える~4つの主要論点とあるべき構造~
現場に浸透するROIC経営実践ガイド【第5回】事業別PL科目の管理体系を整える~内反消去実務と個別論点~
現場に浸透するROIC経営実践ガイド【第6回】事業成長につながるキャッシュフロー管理とは?
現場に浸透するROIC経営実践ガイド【第7回】ROIC経営に向けた投資プロセス管理~基本原則と主要論点~
現場に浸透するROIC経営実践ガイド【第8回】ROIC経営に向けた投資プロセス管理~先進企業の実践事例~
現場に浸透するROIC経営実践ガイド【第9回】ROIC経営に向けた財務三表におけるデータ構造・分析項目のポイント
現場に浸透するROIC経営実践ガイド【第10回】業種・業態の特性に沿った活用法と応用実務
現場に浸透するROIC経営実践ガイド【第11回】年度・月次・四半期、最適なモニタリング頻度とは
現場に浸透するROIC経営実践ガイド【第12回】ROIC経営でPLの「NOPAT」が重要となる理由
現場に浸透するROIC経営実践ガイド【第13回】事業別BSの精度を高める「資産の切り分け」と「投下資本の3つの計算方法」

監修

株式会社アバント 東日本営業統括部 東日本第1営業部 鈴木 健一

<経歴>
総合ファームでのシステム監査のキャリアスタートを踏まえ、一般事業会社での連結経営管理・制度連結システムの導入、運用を10年にわたり従事。
アバントに参画後は、プロダクト企画(プロダクト責任者)および導入コンサルタントを経由しマルチ製品を商材として扱うプリセールスグループに所属。日系製造メーカ(組立系、プロセス系)および多角化コングロマリット企業のグループ事業管理のPJTを歴任。
管理と制度を繋ぐAVANTプロダクトおよびEPMプロダクトに知見を有する。

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