投稿日:2025.08.08
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ROIC経営・グループ管理会計

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ノウハウ

現場に浸透するROIC経営実践ガイド【第7回】ROIC経営に向けた投資プロセス管理~基本原則と主要論点~

本シリーズでは、ROIC経営を成功に導くための実践的な方法を解説しています。
シリーズ第7回となる本記事では、企業価値向上に不可欠な「投資プロセス管理」に焦点を当てます。
将来のキャッシュ創出源である投資活動は、PLやBSの勘定科目の残高に表現できず、勘定科目の動き(フロー)の明細も把握することが必要になります。

第7回、そして第8回は、ROIC浸透に向けた投資管理の実運用上の留意点と実践方法を解説します。
今回は投資キャッシュフロー管理の基本特性と主要な論点を整理し、次回は先進企業の具体的事例をご紹介します。

キャッシュフロー全体の概要や「営業キャッシュフロー・財務キャッシュフロー・投資キャッシュフロー」それぞれの区分の詳細については前回の記事「【第6回】事業成長につながるキャッシュフロー管理とは?」で詳しく解説しています。

投資キャッシュフロー管理における2つの基本原則

効果的な投資キャッシュフロー管理を行うには、まずその基本的な性質を理解することが第一歩です。本章では、特に重要な2つの特性を見ていきます。

1.投資対象の定義|何を「投資」として管理するか?

最初に「何を『投資』と定義し、管理対象とするか」を明確にすべきです。投資対象は非常に多様であり、その範囲を明確にすることで、管理のスタートラインに立つことができます。

多様な投資対象

工場設備や機械といった有形固定資産はもちろん、ソフトウェア開発やライセンス取得などの無形固定資産、さらにはM&Aによる子会社株式の取得や関連会社への出資なども、広義には投資活動に含まれます。

ROIC定義との整合性

ROICを経営指標として用いる場合、その算出式における「投下資本」の定義と、管理対象とする投資の範囲を整合させることが重要です。

経営資源の投下先

自社の資産になるものだけでなく、例えば協力会社の設備導入支援や、他社システムとの連携費用など、キャッシュアウトを伴う「経営資源の投下先」全般を視野に入れ、どこまで管理対象に含めるか具体的に定義する必要があります。

2.時間軸の違い|長期・短期の視点を持つ

投資キャッシュフロー管理がPL・BS管理と大きく異なるもう一つの点は、評価・管理すべき時間軸です。

PL・BSとの期間評価の違い

PLやBSは通常、月次、四半期、年次といった比較的短い期間で実績を評価します。

投資効果の時間差

一方、投資キャッシュフローでは、投資効果がすぐには現れないものが多く、数年単位の長期的な視点が必要です。
数週間で完了する短期的な投資もありますが、設備投資や研究開発プロジェクトなど大規模かつ中長期の投資になるほど、3~5年、あるいはそれ以上の年月を経てようやく投資効果が発現するケースも少なくありません。

複数年度での管理

単年度の予算執行状況や資産の増減を見るだけでなく、複数年度にわたるプロジェクトの進捗状況や累積的な投資効果を追跡・評価できる仕組みが不可欠となります。
時には、中期経営計画の期間すら超えるような長期的な視点での管理が求められます。

投資キャッシュフロー管理における3つの主要な論点

投資キャッシュフローの基本的な特性を踏まえた上で、次に管理の実務において特に重要となる3つの論点、「投資の属性分類」「効果測定」「事業フェーズ」について解説します。

1.投資の属性分類|「攻め」と「守り」を見極める

すべての投資を同じ基準で評価することはできません。投資の目的や性質に応じて属性を分類し、それぞれ適した管理・評価を行うことが重要です。「攻め」と「守り」の分類は、その代表的な考え方です。

「攻めの投資」の例

新規事業開発、新製品投入、M&Aによる事業拡大、研究開発など、将来のトップライン成長や収益性向上を積極的(アグレッシブ)に目指す投資です。

リスクは伴いますが、大きなリターン(ROI)が期待されます。

「守りの投資」の例

老朽化設備の更新、法規制対応、既存システムの維持保守、合理化・省力化など、事業継続性の確保やリスク回避、現状維持・効率化のために不可欠な投資です。

2.効果測定の難しさ|NPVは万能ではない

投資判断における代表的な指標としてNPV(Net Present Value:正味割引現在価値)がありますが、実務上の適用には難しさが伴います。

NPVの理論と課題

NPVは、投資によって将来生み出されるキャッシュフローの現在価値から初期投資額を差し引いたもので、これがプラスであれば投資価値があると判断されます。

しかし、その算出根拠となる将来キャッシュフローや割引率といった前提数値の客観性を担保することが難しいという課題があります。

特に事業環境の変化が激しい場合や、為替変動リスクのある海外投資などでは、予測の精度を保つことが困難です。

代替指標・定性評価の必要性

理論的に優れたNPVも、効果測定や管理が困難では実用性が低いと言わざるを得ません。「大きなプロジェクトではNPVなど分からない」という現場の実感も考慮すべきでしょう。

そのため、NPVだけに固執せず、EBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation, and Amortization:利払い前・税引き前・減価償却前利益)など、より測定・管理しやすい代替指標を組み合わせたり、数値化しにくい戦略的な意義などの定性的な評価を加味したりすることが現実的な選択肢です。

3.事業フェーズによる違い|新規事業と既存事業の管理

複数の事業を営んでいる場合、事業の成長段階(ライフサイクル)に応じて、投資管理のアプローチを変える必要があります。事業ポートフォリオの観点から投資を考えることが重要です。

新規事業・成長事業における投資

上図の左側に位置するような、これから成長が期待される事業や、新たな市場を開拓する新規事業への投資は、不確実性が高くリスクを伴う傾向にあります。

そのため、コーポレート部門が主導し、全社的な戦略に基づいて意思決定を行うケースが多くなるでしょう。「将来に向けたビジネス開拓」のための資金や人材の投下であり、高度な経営判断が迫られます。

成熟事業・既存事業における投資

上図の右側にある、すでに安定した収益基盤を持つ成熟事業(キャッシュカウ)では、事業部が主体となって、効率改善やコスト削減を通じて、事業から得られるリターン(キャッシュフロー)を最大化するための投資管理が中心となります。

事業FP&A(Financial Planning & Analysis:財務計画や分析、予算編成などを行う業務、またはその部門)の領域であり、安定した利益の創出が求められます。

まとめ

今回は、ROIC経営における投資プロセス管理の前編として、投資キャッシュフロー管理の基本的な「2つの特性」(投資対象の定義、時間軸の違い)と、「3つの主要な論点」(属性分類、効果測定の難しさ、事業フェーズによる違い)について解説しました。

これらのポイントを事前に整理し、自社の状況に合わせて定義や方針を明確にすることが、効果的で戦略的な投資管理体制を構築するための重要な第一歩となります。

次回は、これらの論点を踏まえ、先進企業が具体的にどのように投資マネジメントサイクルを設計・運用し、分類コードやモニタリングレポートを活用しているのか、実践的な事例を詳しくご紹介します。

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