「同じ数字」で話せる組織づくりへ ~11カ国23拠点を束ねるデータ基盤構築~
住友ベークライト株式会社
住友ベークライト株式会社は、1907年に世界初のプラスチック「ベークライト」の技術が日本にもたらされた歴史を源流に持つ素材メーカーです。半導体関連材料、クオリティオブライフ関連製品、高機能プラスチックの3セグメントを軸に、グローバル企業としての成長を遂げてきました。
顧客の進出に追随する形でアジアへ工場を建設し、欧米市場への展開に際してはM&Aを活用するという成長戦略を繰り返す中で、拠点ごとに異なるシステムと管理会計に必要なコード体系の不統一、Excelに依存したバケツリレー式のデータ収集体制が大きな課題となっていました。多軸分析は困難を極め、製品ポートフォリオの最適化やROIC経営への移行を掲げた中期経営計画の実現に向け、データ基盤の抜本的な整備は避けられない局面になっていたのです。
そこでアバントの経営管理システム「AVANT Cruise」を採用。スモールスタートによる段階的なプロジェクトとして、グローバル連結での製品別収益可視化に取り組んでいます。プロジェクト推進のアプローチや実現しつつある変化、今後の展望についてお話をお聞きしました。
住友ベークライト株式会社
HPPグローバル事業企画室長 奥 智宏 様
HPPグローバル事業企画 権田 朗 様
HPPグローバル事業企画 篠原 茉優 様
※写真左から篠原様、奥様、権田様
※所属・役職は取材当時のものです
-
導入前の課題
-
グループ全体の収益構造が見えず、個別最適な判断に依存
-
海外拠点のシステムがバラバラで、データ収集はExcelのバケツリレーに依存
-
サマリーレベルのデータしか把握できず、多軸分析は不可能な状態だった
-
管理会計の定義が拠点ごとに異なり、経営の共通言語が存在しない
-
月次集計に膨大な人手を要し、分析・意思決定の深化に時間を割けない
-
-
導入効果
-
AVANT Cruiseによる製品別収益の可視化と全体最適への転換
-
各拠点のデータが自動集計され、顧客・製品・地域・用途の多軸でリアルタイムな分析が可能に
-
全拠点が同一データを参照できる「共通基盤」が確立し、経営対話の質が向上
-
Excelバケツリレーを廃止し、月次集計工数を大幅に削減
-
PL(損益)データの統合により、製品別の限界利益・固定費を共通定義で管理できる環境が整いつつある
-
積極的なM&Aの副産物は拠点分散と経営言語の断絶
―事業概要と、プロジェクトの背景をお聞かせください。
奥様 当社、住友ベークライトの事業領域は主に3つのセグメントに分かれています。医療機器や食品・医薬品向けフィルム・シートなどクオリティ・オブ・ライフセグメントと、半導体用封止材などを扱う半導体関連材料セグメント、そしてフェノール樹脂をはじめとする熱硬化性樹脂の素材・部品を中心に扱う高機能プラスチック(HPP)セグメントです。HPPでは、熱硬化性樹脂が持つ耐熱性・耐強度・難燃性という特性を活かし、自動車のブレーキやクラッチ、タイヤの補強材、EV車のバッテリー周辺部品など幅広い分野に製品を提供しています。国内4拠点に加えて11カ国・20拠点に海外拠点を有しており、特にグローバル比率が高いのも特徴です。
当社の製品にはライフの短いものや温度管理が難しいものもあり、長距離輸送に向きません。そのため『地産地消』を基本戦略とし、1990年代以降、顧客の海外展開に追随する形で、アジアでは現地法人を立ち上げ各国に新規工場を建設、欧米では既存企業へのM&Aによってグローバルに拠点網を広げてきました。こうした拡大戦略によって事業は拡大し、海外売上比率は高まりましたが、同時に課題も生まれました。買収先の企業文化が異なるのはもちろんですが、システムも、データ管理の方法も、管理会計の定義についても統一性を欠いた状況が長く続いていたのです。
―その結果、どのような課題が顕在化していたのでしょうか。
奥様 最大の課題は、データの収集体制です。各拠点が採用しているシステムは多種多様でした。本社からテンプレートを各拠点に送り、毎月の売上や利益を入力したシートを収集し本社で集計する方法を繰り返していました。典型的なExcelによるバケツリレー方式です。
各拠点の担当者の奮闘により、なんとか締め切りまでに数字は収集できますが、入力のため必要以上に工数がかかる上、手元に集まるのはサマリーレベルのデータに過ぎず、当然、経営から数字の内訳を聞かれても即答できません。質問を受けるたび、再度拠点に問い合わせる手戻りが、毎月繰り返されていました。
―管理会計の考え方が統一されていないことで起こる問題について教えてください。
奥様 たとえば「限界利益と固定費に分けてほしい」と各拠点に依頼しても、定義が会社によってまちまちでした。日本なら直接労務費は月給制で固定費に分類するのが一般的ですが、海外の多くの拠点では時給制で変動費と捉えています。このまま同じテーブルで数字を突き合わせても、誤謬が生じてしまい議論することさえできないわけです。
担当者が努力を重ねて毎月数字を届けてくれていても、拠点間で定義がバラバラではデータを比較検討することさえできません。結果として、現場の労力もデータの精度も経営陣から正当に評価される環境になかったのです。この事実を経営陣に説明したところ、データ管理の理想と現実の乖離を「初めて知った」と驚きの声があがったほどです。しかしこれが、プロジェクトを前進させる突破口になりました。
ギャップを整理し、データ基盤構築に挑んだ
―プロジェクトのゴールをどのように設定したのでしょうか。
奥様 起点となったのは当社の中期経営計画です。製品ポートフォリオの最適化、ROIC経営へのシフト、適切な“選択と集中”の実行といったあるべき姿を実現するには、製品・拠点・顧客などの多軸で収益を見られる状態が前提となります。現状のデータ体制では、ポートフォリオ改革と言われても切り口が粗く、どこから手をつけるべきかさえ判断できません。その状況を解消することが、このプロジェクトのゴールでした。
―課題整理を受けて、なぜアバントに依頼されたのでしょうか。
奥様 データの実態が分からないこと、コード体系の定義や粒度が異なること、現場の作業負荷が大きいこと。これらを解消しない限り、あるべき姿にはたどり着けません。フォーマットも粒度もバラバラな情報を、工数をかけずに任意の帳票やダッシュボードへ出力したいと模索する中で出会ったのがAVANT Cruiseであり、探していた答えがそこにあると考えました。連結決算システムを通じた長年の取引実績から、当社のデータ構造を理解しているパートナーである点も重視しました。
その方針を定めるためのアバントとの議論では「スモールスタート」という点にこだわりました。段階的にプロジェクトを進めることで、成果物を早期に出して経営や各拠点に実感してもらえるメリットが得られますし、状況に応じた方針転換にも柔軟に対応できます。すべて一度に実現しようとするとプロジェクトは途中で止まりやすくなるため、まず売上データの統合から着手し、到達後に次のステップを目指すという段階的な発想が重要だったと考えています。
―ステップ1で何を行ったのか解説していただけますか。
奥様 プロジェクトはまずデータの実態調査から着手しました。各拠点のデータ保有の実態、コード体系の違いについて、本社・各拠点ともに十分把握できていませんでしたので、現状を明らかにするところから始めました。その上で「ステップ1」として、23拠点の売上データを統合するプラットフォームを構築しています。
コード統一は、基幹システムのマスタ体系が統一されるのを待つのではなく、独自のマッピングテーブルを用いて拠点間のコードを名寄せする仕組みを採用しました。製品階層・拠点・顧客をグローバルの共通軸で整理し、多軸分析の基盤を整備したのです。
現在は顧客・製品・地域・用途という共通軸で、エリアごと・製品ごとに切り分けたデータをピボットレポートで確認できます。サマリー程度の粒度から比較すれば、大きな進歩と言えます。これにより月次の集計作業は、各拠点がデータをシステムに格納するだけで自動的に完結することとなり、毎月のExcelによるバケツリレーはなくなりました。
―拠点の負荷軽減という点はいかがでしょうか。
奥様 大前提として「このプロジェクトによって仕事が増えた」と現場に言わせるわけにはいきません。各拠点への依頼は最小限のフォーマット整理とデータ提供に留め、加工や統合作業は本社で担うという方針を徹底しました。
また各拠点の協力を得るには、説明と対話を丁寧に重ねることが何よりも重要です。プロジェクト開始前から各拠点担当者に課題の背景と目指す姿を共有し、仕組みが完成することで集計の負荷が下がると繰り返し伝えました。途中経過も報告し、各拠点担当者が当事者意識をもってプロジェクトに関与できるよう配慮したつもりです。
共通データが変える議論の質。感覚から数字へ、そして同じ視点へ
―ここまでの取り組みを通じて、組織にどのような変化が起きていますか。
奥様 最大の変化は、グループ全体が同じデータを参照できるようになったことです。事業トップから各関係会社の経営者まで、全員が同一の数字を見ながら議論できる環境は、以前には存在しませんでした。
共通のデータを土台にすると、対話の質が変わります。「この拠点のある製品の利益率が下がっているのはなぜか」「この市場にリソースを集中すべきではないか」といった具体性を伴う議論が、感覚や過去の経緯ではなく数字を根拠に交わせるようになってきたのは間違いありません。文化の醸成という視点ではまだ動き出したばかりですが、経営と現場が同じ視点で向き合う土壌ができてきたと感じています。
―今後のステップでは、どのような機能が加わる予定ですか。
奥様 構築中のステップ2では、売上データのプラットフォームに原価・販管費のデータを組み合わせ、製品別の損益を同一画面で把握できるようにします。さらに、勘定科目体系を複数用意し、通常のPLに加え、管理会計で当社が重視している限界利益と固定費の分解軸でも切り替えて閲覧できます。拠点ごとに異なっていた定義が統一され、初めて比較できるようになります。
実は、ステップ1が完了し、ステップ2の構築が進んだ段階で、経営から「実績の損益データだけでなく、予算との比較分析まで踏み込んでほしい」という要望が上がりました。当初はROICやB/Sデータの統合をステップ3で想定していましたが、予算データの取り込みと予実管理へと方針を切り替えました。こうした軌道修正を迅速に行えたのも、スモールスタートで進めてきたからこそです。
予算統合、他セグメントへの展開を見据えて
―今後の展望をお聞かせください。
奥様 予実管理の実現に向けては、データを吸い上げるだけでなく、予算業務そのものの標準化が必要です。各拠点がExcelで予算を作成し、フォーマットも作成タイミングも統合する必要があります。しかしそのためには、経営層や現場の意識改革まで踏み込む必要があり、ステップ1・2に比べ難易度は一段上がります。その分、実現したときの意義も大きいと考えています。
その先には、半導体やフィルムなど他セグメントへ展開できる可能性があります。今回取り組んだセグメントは生産拠点数・海外拠点数ともに最も多く、M&Aで加わった拠点も少なくないため、情報の可視化が最も難しい事業体です。そのため、ここで機能した仕組みであれば、他のセグメントにもスムーズに応用できるはずであると考えています。全社で進行中のERPの導入プロジェクトとの連動も重要なテーマで、両プロジェクトの連携、連動が次なる課題となるでしょう。
―同様の課題を抱える企業の方へメッセージをお願いします。
奥様 スモールスタート、すなわち、小さく始めて実物を見せることで、経営や現場から次なる要望や、改善への意見が得やすくなります。すると、プロジェクトの重要性が社内で広く認知され、社内の共有財産としても育ちます。属人化の解消を目指して始めたプロジェクトが、データ経営の意識を根付かせるための動機づけにもなります。こうした方法を取れば、組織全体で課題や手応えを共有しやすくなるので、おすすめできます。
※取材年月 2026年3月
※文中に記載されている情報は、いずれも取材時点のものです
住友ベークライト株式会社
設立:1932年1月25日
本社所在地:東京都品川区東品川二丁目5番8号 天王洲パークサイドビル
事業内容:半導体関連材料、クオリティオブライフ関連製品、高機能プラスチック
URL:https://www.sumibe.co.jp/
※2026年3月 取材当時の情報です
経営管理において必要な財務・非財務情報を収集・統合し、多軸分析を行えるクラウドサービスです。1,200社超の支援実績から生み出された経営管理機能を持ち、データを収集する入力画面や、 90 種類の経営会議レポート・分析帳票などを標準搭載。設定のみで利用できます。
