AVANT統合報告書2021

CEO MESSAGE
「企業価値の向上に役立つ
ソフトウエア会社になる」。
社内外と活発に対話を進めながら、
このマテリアリティを追求していきます。

森川 徹治
株式会社アバント 代表取締役社長 グループCEO

地獄の特訓

2022年1月31日の取締役会、第2四半期決算発表の決議の場のことです。米国人の社外取締役から「この3ヵ月の株価の下落は危機的な事態である。その理由の分析や対策なくして決算承認はできない、そもそもチェアマン(私のことです)の株価に対する危機感が感じられない」、そう強く詰め寄られました。
これまでも度々、株価に関する強い意見はありましたが、今回はまるで倒産の危機に瀕しているかの如くです。その場は危機対策と決算承認を切り分けることで決議は終えることはできましたが、自分としては全力で企業価値の向上に取り組んでいる自負があるなか、企業価値というものとの向き合い方が未だにできていない。それを痛感した体験です。頭で理解するのと、このような現場で体験するのではその後の行動へのインパクトが違います。
「しかし、きついなぁ」。独りごちながら、かつて、ある企業家の方の「私の履歴書」(日本経済新聞)で、経営者としての成長を求めて地獄の特訓と呼ばれていた経営者合宿に参加したエピソードを思い出して苦笑いです。今の取締役会は経営者としての成長環境として自ら望んだものだからです。 

正しい企業価値の向上はみんなをハッピーにする

アバントグループは2022年5月で25周年を迎えます。社会の公器として役立つ理想企業をつくろうという思いと、企業の健全な発展に役立つ経営情報システムを普及させることで社会に役立とうという思い。その二つの思いを持って社長業に取り組んできました。
当初より、ステークホルダーの多い上場企業をメインの顧客とし、トップマネジメントが必ず関わる開示情報である連結会計情報を作成するシステムから事業をスタートしました。しかし、創業当時は、上場企業にとって役立つ経営情報というものはまったくイメージがつきません。「やはり、自分で経験していかないとだめだな」。そんな問題意識から、会社を上場させ、上場企業の経営とは何か、そしてその経営を支える情報とは何かを探索し続けてきました。
上場して15年、東証一部に指定替えしてから4年、そういったものが「企業価値」というものに収斂されることがようやく頭ではなく身体でわかってきました(大企業や海外での経営経験が無いため、えらい時間がかかりました)。単なる株価や利益というものではなく、長期にわたり利益を創出する環境をつくり続けることが、企業価値の創造であり、貢献する対象は顧客のみならず、社員、社会、ひいては環境まで視野に入れるものであるというものです。要は企業価値の向上に徹底的に向き合うほど、社会への貢献価値も高まるということです。
(私は経済学者の宇沢弘文さんの考え方が好きなのですが、そこでの事業活動の間接的な社会や環境へのコストまで考えて、利益を追求することが長期的な利益の最大化となるという考え方とも一致します。)
10年ほど前、金融機関出身の一部上場企業経営者の方と食事している時に、株価は気にしていないという話をしたところ、「上場企業にとっては株価を上げることが全員をハッピーにする唯一の方法なんだよ」と諭されたことを思い出します。私のなかで、株価と企業価値がつながっていなかった当時は今一つピンと来ていませんでしたが(笑)。
しかし、長期視点の企業価値向上は簡単ではありません。なぜなら、会社の活動のステークホルダーが従来とは異なるレベルで拡大するからです。ステークホルダーに何も影響を与えずに粛々と事業を発展させていくことは少なくとも長期には不可能です。未来をデザインし、そのカタチに向けて行動するためには関連するステークホルダーとの利害調整を含む対話が欠かせません。
「ああ、対話力不足だ」。冒頭のエピソードは、この対話力を問われたものでした。
対話の相手を広げるほど、日本的経営や公器という理念的な話ではなく、将来利益や社会コスト、資本効率などの計測と可視化も行い、さまざまな工夫を凝らして対話する必要があります。これらの情報は単に経営者が経営状況を理解して意思決定するためではなく、多様なステークホルダーと対話してあるべき環境を整えるための説明責任を果たすツールとしての意味合いが重要だと考えています。
余談ですが、昔の経営方針等の資料を読み返すと、1999年には、どんなビジネスをするのか?というお題に対して「価値の高い会計・経営のノウハウをパッケージ化し提供することで、お客様の企業価値向上を支援する」と明記していました。自分自身忘れていましたが、当時から企業価値という言葉を使っていたようです。意味もわからずよく言ったものだと思わず笑ってしまいました。

企業価値の向上に役立つソフトウエア会社になる

さて、今回の統合報告書ですが、メインテーマは「企業価値とは何か」です。
ファイナンス的には定義はありますが、実際の事業活動と関連づけるにはさまざまな視点から理解を進める必要があると考えているからです。誌面の表現についても、企業価値というある意味バーチャルな世界を表現するために、アニメ風の表現と組み合わせてみました。
これまで当社は、企業経営に関わる情報システムやSI、アウトソーシングの提供を行ってきましたが、私たち経営陣の視座や経験から、それぞれ個別の課題解決に集中してきました。しかし、上場企業にとって経営情報というものが最終的に何の役に立つためのものかを突き詰めると、経営と同様に企業価値の向上に収斂されます。この視点をもってお客様との対話、投資家との対話を進めるほど、企業価値の向上は非常に重要な経営課題であり、その解決の一助となることでこれまで以上に社会の役に立つことができると確信が強くなりました。
しかし、お客様や社員にとっては、実際に提供しているサービスや商品が企業価値の向上に直接的に関わっているわけではないのでイメージがつながり難いのが現実です。また、自社の能力においても、目指す姿とはかなりギャップがあります。
そこで、この統合報告書の作成プロセスを活用し、まず企業価値というものを、お客様、アカデミア、投資家の異なる視点で紐解くという試みを行いました。皆さん、私自身が尊敬する各界の第一人者の方々です。今回の対話からもたくさんの生きたインスピレーションをいただきました。誌面の関係で、記載できたのはその一部ですが、社会善としての企業価値の向上とは何かを考える一助になればと願っています。
また、当社執行メンバーとの対話では今後の事業戦略の方向性を明確にしたものを戦略マテリアリティと呼び言語化を行いました。今回は社内の経営陣のみならず、外部の有識者のご支援をいただきながら紆余曲折を経つつも最終化することができました。
そこで紡ぎ出された戦略マテリアリティが「企業価値の向上に役立つソフトウエア会社となる」です。このマテリアリティには二つの解決すべき経営課題が織り込まれています。一つは私たちがお客様の企業価値の向上に役立つソリューションを提供できるようになること、もう一つはこのテーマに対してソフトウエアというノウハウや経験を形にしたものを中心にしてビジネスを推進できるようになることです。
このマテリアリティの言語化は次期中期経営計画の立案と組織活動との連携を始めるための第一歩として行いました。今回の統合報告書作成における最大の成果は戦略マテリアリティを特定できたことです。

現在の中期経営計画の考え方と現状

現在の事業活動は、2019年6月期より開始した中期経営計画の4年目に当たります。現在の中期経営計画は10年かけて世界に通用するソフトウエア会社になっていこうというチャレンジの前半戦として策定したものです。これまで最初の10年は株式会社ディーバの創業と発展、次の10年は世界に通用する会社へのチャレンジができる環境を整えるためのグループ経営による事業の発展とテーマを定めて舵取りを行ってきました。今回のチャレンジも最初の道のりはまったくクリアではありませんでした。しかし、事業活動の第一歩はやはり意志です。段取りに時間をかけ無難な計画を立案するよりも、チャレンジをする覚悟を決めることを優先し中期経営計画を策定しました。
現在の中期経営計画の基本的な考え方は、1株当たり利益をいかに高めるかという視点とその持続性をいかに高めるかの二点に効くアクションへの集中です。頭のなかにはEPS(1株当たり利益)×PER(株価収益率)の最大化というイメージを常に持っています。
EPSの向上については、その元となる営業利益の5年平均成長率を18%以上としました。一方のPERの向上についてはリカーリング型(ストック型)の売上比率を高めること、当社の表現ではストック売上比率(RSR)を70%まで引き上げようというものです。そして、その両者をつなぐKPIを米国のSaaS企業が求められる最低限のパフォーマンスである、売上成長率と営業利益率を足した指標(GPP)で40ポイント以上のパフォーマンスを安定的に出せるようになることとしました。また、無形資産としての組織力の向上も重要視し、外部調査機関を活用した社員満足度調査で、忖度無しにトップレベルの水準を実現するための指標も設定しました。資本効率の観点ではROE20%の維持を定めました。 しかし、過去と比べて事業規模も大きくなり、以前のように一人で考えリードしていくには限界でした。目標と実業のギャップや経営チームとしての理解度など、これまでとは異なる課題が次々に露呈し、新たな成長領域の特定やマネジメントチームとしての進化など、自分自身の経営スタイルを変化させ、非連続的な変化に適応することが必要になりました。そもそも現在の中期経営計画は、その次の5年を走りきれる段取りを整えるために変化の圧力を高めるものと位置づけ、かなりの試行錯誤を行う前提としていましたが、あくまで自分の頭のなかの話であり、そのための説明責任も圧倒的に不足していました。
この経営の試行錯誤を前提とした、言い換えるとアジャイル型の経営は社内のメンバーのみならず、社外の取締役や投資家にとってもかなりわかりにくい状況をつくってしまいました。わかりにくいものは組織として実現できません。結果として、未来の価値創造にとって重要なGPPやRSRについての進捗は大変厳しいものとなっています。
そこで、2022年6月期は、早々にグループのマネジメントメンバーとともに次期中期経営計画の策定を開始し、現在の取り組みの最終形を明示しつつ、社内外のステークホルダーとの対話を増やし、活動の透明性を向上しようと活動を行っています。先に触れた戦略マテリアリティの特定はそのための行動の一つです。これから、このマテリアリティを柱として、内外との対話を進め、現中期経営計画の策定や実行の反省も踏まえ、企業価値の向上につながる、より高い社会的意義と実行性をつくり込んでまいります。

次期中計に向けて

当社のミッション「経営情報の大衆化」は、英語で言うと「Spreading Accountability」です。説明責任の大衆化を通して企業価値の向上ができるという仮説を込めています。上場企業というくくりで言えば、当社はまだまだベンチャーに毛が生えたような存在です。しかし、自らの経験機会も活かし、上場企業を中心とした1,100社を超える優良な顧客資産へ、単に情報システムの提供というだけでなく、お客様の企業価値の向上に役立つ情報環境を整えていくことに役立とうという活動が広がれば、これまでの知見や事業資産を活かし、貢献価値を現在の2倍にも3倍にも増やすことは難しくはありません。併せてお客様も倍増するでしょう。それだけにとどまらず、お客様への貢献価値の拡大を通して、メンバーの成長、つまりは社会にとってのメンバーの価値向上も実現できます。結果として、当社の事業成長はこれまでとは異なる次元で実現できると考えています。しかも、このテーマであればいずれ世界市場も目指せます。
いつも心に抱いている思いです。秘めていても意味は無いのでまずは口にすること。これもSpreading Accountabilityの一歩です。対話の力を信じ、自分たちの限界を超えた健全な事業成長を目指していきます。
今回の前書きは少々長くなりました。ここから本編、企業価値向上への取り組みをお楽しみください。
さてさて、私は次期中期経営計画の段取りに取りかかります。

代表取締役社長 グループCEO 森川 徹治

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